風と日光という「自然」を活かした保育園の建築デザイン~建築家・井出敦史氏インタビュー

風と日光という「自然」を活かした保育園の建築デザイン~建築家・井出敦史氏インタビュー

押しつけ型のデザインから共創型のデザインへ

井出敦史氏

保育ネクスト

昔と比べて保育園の建築デザインは変わっているのでしょうか。

昔の保育園には大人用のトイレはありませんでしたが、それでは働きにくいので、必ず大人のトイレを各育児室に設置しています。
それから、最近は園庭のフェンスが高くなってきました。近隣が不寛容なことが多いので、防音効果のある高いフェンスを作るんです。子どもの声がうるさいという苦情が多いんですね。
ボール遊びも近隣の苦情があるから禁止で、昔は子どもに寛容だったと思います。
建築に関しては、昔は大人と子どもの動線が分けられているケースが多かったですが、今は、いつでも子どもを目視できる視認性が重視されるために動線を分けていません。

保育ネクスト

建築デザインにおいては、クライアントの方針が必ずしも明確でなく、建築家がクライアントと共創していくような作り方が多くなっていくように思います。

おっしゃるとおり、建築家もクライアントも、今までは“押しつけ型”が多かったと思います。
建築家が設計した有名な建物なのに、デザインは恰好よくても使いにくかったり壊れやすかったりするケースがあります。
それは建築家が悪いわけではなく、クライアントが有名な建築家がデザインしたものだからという形で、そのまま建ってしまった結果なのではないでしょうか。
また、逆にクライアントからトップダウン式で設計した建物も、結果として使いづらいものが多いんです。

なぜそのようなことが起こるのかと言うと、クライアント側のスタッフの意見が十分に吸い上げられず、建築家のアイデアもすべてストップした偏った建物になってしまうからです。
建築家がまとめ役になり、クライアントやスタッフのすべての意見を机の上に出して、真面目に分析しながら優先順位をつけ、どういうものを作っていくかを考えるという過程を、設計のベースに置く。
そして、その先にデザインや建築家の思いがついてくるという形に必然的になっていくと思います。
そういうものを全部入れて形にすれば恰好よくなりますし、機能美も生まれますが、それを無視して設計すると、何の意味もないものができてしまう。
スペースひとつとっても、これはなぜここにあるのかわからないような空間ができ、コストばかりかかってしまうことになります。

たとえば戸建ての家でも、旦那さんと奥さんの意見は全然違います。
機能と動線を重視する奥さんに対し、男は夢のようなことばかり言いますから、両方を取り入れると、女中部屋に優雅なリビングがあるような変な家になってしまうんです。
家として魅力のないものになりますから、そういうときは嫌われてもいいと思って、言いにくいことでも言うようにしています。
保育園でも同じで、スタッフの意見ばかりを聞き入れると機能オンリーの建物になって面白くも何ともなくなってしまいます。
園庭に出ておおらかに遊ばせたいという園長の想いも入れてあげないと、建築としてつまらない建物になってしまうわけです。
だから、やはり優先順位をつけていくのが一番だと思うんですよ。
100個の要望があったとして、優先順位をつけて10個は完璧にやる。
そこから先は建築家の仕事で、その優先順位をどうプランに取り入れていくかを整理してあげるわけです。

保育ネクスト

建築家が一方的に提案するのではなく、クライアントとのやり取りが生まれるわけですね。

川和保育園も、設計側の一方的な提案ではなく、園と一緒にディスカッションをしながら、ひとつひとつ回答を見つけて造り上げたものです。
そのやり取りでアイデアを出すのが建築家の役割で、たとえばコミュニケーションをとりやすくしたいとか、感染症予防のために風の通り抜けをよくしたいというような要望があったら、どうしたらそれを実現できるかを建築家は考えていけばいいと思います。

株式会社sum design (株式会社サムデザイン)
Architect 井出敦史
Works 建築設計・土木設計・構造設計・設備設計
造園設計・施工監理
リノベーション及びリフォーム設計
インテリア設計・家具及びキッチンデザイン
都市計画・土地の有効活用コンサルティング
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取材日:2020年4月6日
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