風と日光という「自然」を活かした保育園の建築デザイン~建築家・井出敦史氏インタビュー

風と日光という「自然」を活かした保育園の建築デザイン~建築家・井出敦史氏インタビュー

自然のミニチュア版が一番楽しい!

川和保育園
川和保育園

上の写真は先ほど話した「川和保育園」ですが、コミュニケーションをとりやすくという要望があったので、保育室と保育室の間に開口をつけ、視認性を高め、声も聞こえやすくしました。
育児室が3つ並んでいるのですが、廊下に開口をつけてあり、風が通るので、夏はエアコンを使わずに抜けていく風だけで涼しくなります。

こちらは、「ぽっかぽっかナーサリー相模原園」です。

ぽっかぽっかナーサリー相模原園
ぽっかぽっかナーサリー相模原園
(相模原市中央区 敷地:648.68㎡ 延床面積:451.78㎡)
ぽっかぽっかナーサリー相模原園
ぽっかぽっかナーサリー相模原園

こちらは育児室を全部完全に仕切らず、ひとつの大きい部屋として使えるように考えています。風通しもよくしたいという要望があり、全部の育児室に窓を2か所ずつつけて風を抜くようにしました。

保育ネクスト

遊具などについてはいかがですか?

園次第だと思うのですが、後から設置すると、園長さんがカラフルな滑り台やブランコなど通り一辺倒のものをぽんぽんと置いてしまうので、まずどんな遊びをさせたいかというアイデアを聞いて、こちらから提案します。
「川和保育園」は山砂や芝にしたいということでしたので、ランドスケープデザイナーを入れてベースになる園庭を作り、前もってどんな遊具を置きたいかを聞きました。

川和保育園
川和保育園

この保育園はもともと裸足で庭に出て遊ぶと言う方針の園だったので、築山を作って園庭をひとつの大きな砂場と見立てたらどうかという提案をしたら、かなり受けました。
西日の強い敷地なので、木を点々と差して、夏は木陰に入れるスペースを作りました。
水をふんだんに使う園なので井戸を掘り、それをどこでも使えるようにぐるっと一周、水路を回したんです。等間隔で井戸水が使える蛇口を設けて、どこでも水が使えるようにしました。

川和保育園
川和保育園

ここに池を作ったのは、こちらで提案した内容です。雨樋もなくし、あまりメンテナンスをしなくていいようにしました。
樋をつけないと水のルートをきちんと考えてあげなければならないので、気を遣いました。
建物より高い木がある土地だと、樋に葉が溜まって流れなくなってしまうので、屋根自体で流せるようにします。屋根自体で流れるようにすると、雨水が流れるのを子どもが遊びに使えるのも面白いところです。
ただ、そのまま流れてしまうと溜まってしまうので、その下に水受けを作って浸透させてから池に流し込み、循環する設計にしました。

保育ネクスト

他にも子どもに面白がってもらえるような仕掛けはありますか。

今回築山を作ったのも、自然のミニチュア版が一番楽しいと思ったからです。
子どもは山で遊ぶほうが絶対に楽しいんです。
遊具を置くより、敷地の面白い部分を強調して遊びやすくしてあげることに執着します。
園庭と園舎のつながりを密にして出やすくしたり、園庭がない場合は屋上に少し面白いスペースを作ったり。
土地によってできることに限界がありますが、起伏などを面白く作ってあげたいですね。
隣に林があれば、そのつながりをうまく作ってあげるなど、敷地内だけでなく、周囲とつながりを作ることで面白い遊びができればいいなと意識しています。

保育ネクスト

保育園の出入りの動線はどのようになっていますか。

ひとつの育児室に玄関がふたつあり、登校用の靴と遊び用の靴を分けています。

川和保育園
川和保育園

登園用の汚しちゃいけないような靴はここで脱いで、外へ行くときは、育児室の入り口のデッキで、汚してもいい外用の靴に履き替えて遊べるようにしました。
どの育児室からでも外に出られるような動線を意識して作っています。
保護者も毎日靴を洗うのは大変ですから、履きつぶしていい靴を置きっぱなしにする動線計画を立て、朝、園に来たら登園用の靴は帰るまで履かないようにしました。
風通し、コミュニケーション、視認性の高さとともに、受け入れの動線も配慮しつつ、一緒にデザインで解決しました。
「ぽっかぽっかナーサリー相模原園」の場合は、廊下を介して育児室に入るシステムだということだったので、園庭側に廊下を作りました。

ぽっかぽっかナーサリー相模原園
ぽっかぽっかナーサリー相模原園

廊下を掃き出し窓にして、全部開いて園庭に出られるようにして、内側に各育児室の入口を設けてあります。

保育ネクスト

日本家屋の縁側みたいですね。中が暗くなって採光が難しくなりませんか?

日本家屋というのはよくできていて、外側に廊下があるので、夏は四方から風が通りますし、冬は内側の障子を閉めれば巨大なペアガラスの役割をしてくれます。
しかも床がものすごく上がっているので暖かいんです。
そういったことを意識してやると、建築の性能が上がります。日本家屋はもともと暖房も冷房もない時代のものですから、性能がいいに決まっているんです。
また、収納をたくさん作ってほしいという要望もあったのですが、壁を収納にしてしまうと、道路側の窓がなくなってしまうので、ロッカーを作ってその上を窓にして風が流れるようにしました。

ぽっかぽっかナーサリー相模原園
ぽっかぽっかナーサリー相模原園
保育ネクスト

造作が多いのは大変ですね。

お金もかかりますし、必要がなければやらないのですが、家具は自分で買ってくださいと言うと、絶対思うように使ってくれませんから、その建築の背骨になる重要な部分は、やはりきちんと絵を描いて提案しています。
たとえば窓を開ければ風が抜けるようにした場所にわざわざタンスなどを置いてしまったりするので、こちらで図面を起こして建築で収めたほうがうまく使ってもらえます。
ただ、造作を作りすぎるとコストもかかるし、居所を限定してしまうことになって流動性が失われるので、家具を動かして変化をつけることも大切だと思います。

川和保育園
川和保育園

「川和保育園」では、もともと家具をいろいろ動かして季節によって変化させるスタイルであることが分かっていたので、全部動く家具にしています。
ここが動線になるということがぱっと見て明らかになるように開口をつけているので、こちらが思ったように使ってくれていると思います。

保育ネクスト
ゾーニングの考え方ですね。

想定ゾーニングをスタディして決めています。こう使ってほしいと説明するまでもなく、だいたい想定したように使ってもらえていますね。
開口のつけ方などでうまく示してあげたり、大空間を作るときに、梁や柱の要素を、作為的にゾーニングのきっかけになるような仕掛け造りをしています。

 
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