マネージャーさんへカリスマインタビュー

感情労働からの脱却で保育士の働き方を変える~そやま保育経営パートナー 楚山和司氏インタビュー

感情労働からの脱却で保育士の働き方を変える そやま保育経営パートナー 楚山和司氏インタビュー

よく言われるように、保育士の賃金水準は高いものとは言えません。「この子たちのため」と自分に言い聞かせ、長時間労働、休日労働、有休未消化、その結果としての心身の不調を起こすような働き方が常態化している例も少なくありません。
そやま保育経営パートナー(東京都中央区)では、社会保険労務士の楚山和司氏が保育園の人事労務、会計経理、採用戦略のサポートを通じて、現場の保育スタッフと事業者を公平・公正に規律する「働くためのルール」をともに築き上げ、誰もが気持ちよく働ける職場づくりを支援しています。
現在の保育園を取り巻く環境について、お話を伺いました。

一般企業とはまったく異なる、保育所経営をめぐる社会状況

保育ネクスト
楚山さんの業務を教えてください。

社労士として就業規則の作成や改定、社会保険や雇用保険の手続き、給与計算など労務面でのご相談にものりますし、賃金制度や評価制度の構築などを行っていますが、私自身、保育事業者として 働いていた経験があり、保育士資格もあるので、保育業界に特化した経営サポート、特に労務面を中心とした経営サポートをトータルに提供しています。そういったコンサルティング業務やセミナー講師業も行っています。この事務所を立ち上げたのが平成28年度ですから3年半、4期目ですね。契約件数で言うと30件ほどの保育事業者 をサポートとしています。
社労士ですから、やはり人に関する問題のご相談が多いです。前職ではお金周りの実務もやっていましたから会計的なご相談もあります。

保育ネクスト
保育所のビジネスは、一般企業とはどのように違うのでしょうか。

保育事業、福祉の仕事は労働集約的で、人がものを言います。保育士という人が人の育ちを支えるということから、一人ひとりの資質が積み重なった園全体、法人全体の質が特色になります。逆に言うと、他の部分で限界があったとしても人の部分で価値の差がつくわけです。福祉人材の評価とはそもそも何をもって誰が行うのか。理想的には評価が待遇に結びつき、賃金制度を構築しなければならないと思っています。
保育所のビジネスモデルには様々な類型がありますが、一般の事業会社とは異なり、売り上げが頭打ちになります。一般の会社であれば、ものを売ったりサービスを提供すれば稼ぎは大きくなりますが、保育所は子どもを預かる定員に対して100%の稼働率を維持していくことが求められ、それ以上の給与原資はないと言っても過言ではありません 。いわゆる営業活動は基本的には必要なく 、現に待機児童の問題が起こっているわけですから、子どもが定員まで入ってくれれば行政が原資をあてがってくれて売り上げは安定します。つまり、一般企業のような事業的な成長としては限界があり、右肩上がりのビジネスモデルを描くことは難しいわけです。
そういった面を専門的な視点で正確に精緻にやろうとすると、専門家の手を借りたいということでご相談を受けるわけです。

保育ネクスト
待機児童問題は、全国的に同じ状況でしょうか。

毎年度4月・10月に待機児童の集計結果が公表されます。東京・名古屋・大阪という三大都市圏では待機が多く起こっており、札幌、沖縄などの地方都市でも待機がかなり多いです。人口集中都市はともかく、思いのほか札幌、沖縄などの北と南、政令市や中核市に波及しており、地域の偏りが見られます。広島や、同じ大阪でも東大阪市などのベッドタウンや千葉、埼玉、神奈川でも横浜は一時期ゼロになりましたが、その後はまた発生しています。横浜のように保育施策が充実すると、それが呼び水になってみんなが集中してしまうために、また待機状態が発生することもあります。いわばいたちごっこですね。

保育ネクスト
国からの補助金は、保育所に所属する保育士の人数で決まるのでしょうか。

違います。保育園経営の諸経費は7~8割が人件費で、ほかに水道光熱費や家賃、給食の材料費などで9割近くになります。国がそうした標準的な費用を見積もり、子ども1人当たりの月額単価に置き換えて補助金を設定していますので、単純に職員1人当たりとはなっていません。毎年度、経営実態調査で全国の保育所施設が国に収支を報告しており、地域ごとの平均的な人件費は出ていますから、職員1人当たりというロジックもあるはずですが、現状では費目単位ではなく、すべての平均的な経費をトータルして児童1人当たりに割り返して設定しているわけです。ですから、保育園ごとに単価が違うわけで、掛け算で決まるシンプルな構造ですが、児童1人当たりで決まるので、基本的には定員いっぱいになるとそれ以上は上がらないわけです。

保育ネクスト
保育料は園によって違いますよね。

保育料は世帯収入と地域性によって決まっています。オプショナルな付加価値をつけようとしても、保護者の書面同意が必要ですし、自治体がそうしたことを認めた話は聞いたことがありません。認められたとしても実費で、利益は上乗せはできません。本当にガチガチで、旧態依然としているんです。

保育ネクスト
当たり前のことですが、経営にはしっかりした理念が必要ですね。

そうですね。覚悟というか、利益前提だと後から苦しくなります。制度や国の予算の動きを踏まえながら事業を継続していかないと、想像と違うことになってしまうと思います。

保育士が辞めてしまう理由は何か

そやま保育経営パートナー 楚山和司氏

保育ネクスト
保育所からはどのような相談が寄せられるのですか。

労使トラブルで多いのは、ハラスメント関係、あとは約束した待遇が違う、違わないという労働条件の相違です。
最近は保育業界でも働き方改革が叫ばれ、残業がやり玉に挙げられます。仕事の持ち帰りや隠れ残業が問題になったり、休憩がとれていないという問題があります。子どもの面倒を見るという仕事は、純粋に労働から離れる時間をとりづらく、結局、半分面倒を見ながら半分休むということになりがちです。どこからどこまでを労働時間とするかという始終業の問題もあります。たとえば10分前に出勤して着替えたら、その10分を労働時間としてカウントするかというような問題が多いですね。