感情労働からの脱却で保育士の働き方を変える そやま保育経営パートナー 楚山和司氏インタビュー

感情労働からの脱却で保育士の働き方を変える~そやま保育経営パートナー 楚山和司氏インタビュー

参考サイト 保育士300名に聞く「保育園問題」(マクロミル調べ)

それによれば、賃金が低い、労働時間が長いという絶対値の問題ではなく、それらが連動していないことが辞める理由になっていました。低賃金でも休みがとれて定時で帰れるならいいかもしれませんが、低賃金で、なおかつサービス残業。額面は高額でも、内実は非常に労働負荷が高く、アンバランスだから辞めてしまうわけです。
なぜ労働時間長時間になってしまうのか。
医療福祉の現場では「感情労働」という言葉が使われますが、社労士としての立場からすると、そこに反省すべき点があるのではないかと思います。
たとえば、保育の中では「行事」が大きな比重を占めていますが、子どものため、保護者のためという大義名分のもとに、ものすごく手の込んだ作り込んだイベントが企画され、さらに保護者の期待や前例化でそれがエスカレートして引くに引けなくなり、かかる時間が毎年雪だるま式に増える例がある。それが昨今の働き方改革の流れで「早く帰ろう」ということになると、持ち帰ってしまう、つまり隠れ残業をよしとする風土があるわけです。
大義名分や倫理観にとらわれることをすべて否定するわけではありませんが、それによって損なわれていることもある。野放図に残業代を出せるかというと、先ほど言ったように限界があるわけですから、もう少し大きな視点で働き方を考えないといけないと思います。

保育ネクスト
保育の仕事の生産性を高くするためにはどうしたらいいのでしょう。

厚労省は生産性を高めるための事業分野別指針を出しており、その中に保育業界についても書かれているのですが、私は保育には生産性という考え方は相いれない感じがしています。
厚労省の指針では、ある意味あっけらかんと、いわば経験年数がニアリーイコールで生産性の高まりと言えるだろうと書かれています。経験が蓄積されていけば、質を保ちながら手間が省けるような手法を見出せるようになる、という蓋然性を見立てているのでしょう。
ただ、私からするとちょっと視点が違うと思います。福祉人材に共通していることですが、やっぱり年数では測れません。意識の問題というか、つねに改善という意識で見ていかなければならないんです。子どもの命を預かるためにすごくマニュアルが徹底している世界ですから、経験年数とイコールとは言えないと思うんですよね。
やはり一番は、保育の質とは何かと考える、問い直すことです。先ほどの行事の例で言えば、見栄えの良さを求めるのは誰のためなのか。保護者のためだったりするわけですね。子どもたちが真剣に整然と動いて、保護者や職員にとって感動的な演出になるものを「質」と考えてしまうと、大人のための仕事になってしまい、「質」とは言い切れないものになってしまう。
100の労力をかけてきた行事を80の労力でとどめ、残りの20を子どもたちにかける時間に割いたり、それこそ昇給などの人件費に割いたりするべきだと思うんです。
当たり前のようになっている保育の質、保育士に不可欠とされてきた要素が今の時代に合っているのか、保護者から求められているのか、自己満足なのではないかと問い直して、外注したり、廃止・縮小したり、毎年やらずに隔年か5年に1回にしたり、業務の優先度や軽重を整理すべきだと思います。
あとはICTの活用ですね。マニュアルな業務が多い世界ですから、AIやIoTのテクノロジーを活用して、保育士2人でやっていたことを1人とか1.5人で済ませることができれば、負荷を低くできると思います。

テクノロジーは保育の価値に置き換えることができるか

そやま保育経営パートナー 楚山和司氏

保育ネクスト
ICTを活用している実例はありますか。

たとえば午睡チェックのアプリやシステムがあります。一般の方は、子どもがお昼寝している時間に休憩すればいいと思うかもしれませんが、0歳児の場合などは5分間隔でつぶさに見ていないといけない。呼吸が止まったりしてしまうので、体がうつ伏せになっていないか、寝返りうっていたら直したり、呼吸バイタルサインを把握したりというチェックを5分ごとにするので、実際には休憩の時間などおいそれととれない わけです。相模原のぽっかぽっかナーサリー相模原園では、システムを導入して、子どもにIoT機器のセンサーをつけています。センサーが体の動きやバイタルサインを検知して、タブレット端末にリアルタイムに情報を発信するので、画面を見ていればいいわけです。すぐさま駆けつけられる体制さえとれれば、これまでの保育の質を保って職員の負荷を軽くできる。よほど通信障害や停電などがないかぎりは正確で有効なようです。

ぽっかぽっかナーサリー 相模原園(東京都相模原市)
ぽっかぽっかナーサリー 相模原園(東京都相模原市)
保育ネクスト
保育園という職場はICT的には遅れているという印象ですが。

たとえば写真販売などは昔に比べるとシステム導入が進んでいますね。行事のたびに先生たちが撮った写真の注文を受けて焼き増しして送るのはけっこうな手間でしたが、今ではネットにアップして自動化されています。
それに対して、保護者との連絡帳など記録の多くは手書きで、重複している記録もありますし、定型的なものなら端末でタップしたり、プルダウンで選択するシステムに代えても差し支えないように思います。
結局、保育の質と表裏一体で、経営者の判断次第なんです。ICTを活用したら質が低下すると思っている方もまだ根強くいます。保育者が子どもと1対1で温かく関わる手作り環境が絶対、という保護者の要求は根強い。保護者へのお便りも「やはり手書きの温もりが」「手書きのよさが」というのが始まって、なかなか進みません。
しかし、少なくとも安全安心が確保されていれば、四六時中、子どもと直接関わる必要はないかもしれません。いくら子どもと向き合っていても、職員の表情が凝り固まって、何も楽しくない、ただ言われるがままに面倒を見ているのでは、形だけが整っているにすぎません。労力に代わってテクノロジー活用による負担軽減を、保育の価値や質と置き換えられるかどうかが今問われていると思います。
保育事業者は戦後間もなくから設立されているところも多く、経営者の高齢化も進んでいおり、これから代替わりしてマインドが切り替わっていくと思います。今のところは、いまだに人手でなければ意味がない、テクノロジーに頼るべきではないという向きが根強く、大きな溝になっています。
ただ、ICTを積極的に取り入れている事業者はまだまだレアケースで、ぽっかぽっかナーサリー 相模原園は職員が若く、リテラシーが備わっていることも大きいでしょうね。ベテランの先生方ばかりだと敬遠されてしまう。
もともと母体がIT会社で、園長同士とか、園長と担当役員とか、Zoomやチャットワークを使ってコミュニケーションしている園もあります。そこでは在宅勤務も取り入れていますね。

保育ネクスト
保育士さんの仕事はリモートでできるのですか?

保育の仕事は必ずしも園内でやらなければいけない仕事だけではありません。たとえば季節に合わせたり行事で使ったりする室内装飾の制作物や衣装などの制作は、園内でなくてもできる。情報セキュリティの面で差し支えない業務を在宅でお願いして、連絡はチャットワークやZoomを駆使する。
本当に保育士が手作業で時間をかけてやるべきなのは何か。自前主義で、すべて自分たちでやることが前提になっているので、そこをうまく整理すればシステムを使うことにつながると思います。

保育ネクスト
指導計画や指導目標などの立案・設定も効率化できるでしょうか。

保育所保育指針という 、小学校でいうところの学習指導要領のような国の指針があり、年に1度自治体の指導監査、立ち入り調査があり、チェックされます。そういったことも深く考えていくときりがありません。みんなでウンウン言いながら頭を使って考えなきゃいけないのか。理想を言い出せば何十時間と時間をかけることになりますが、一定の議論を経ればいいというのであれば、職員10人分の意見が出たらその時点での計画や理念として立てて、あとは実践の中でブラッシュアップすればいいのではないか。記録、計画を立てること自体が目的化している園もあると思います。きりのないところにきりをつけることが必要だと思いますよ。

事務所名 社会保険労務士事務所 そやま保育経営パートナー
代表者 楚山 和司(そやま かずし)
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電話番号 050-5434-9360
FAX番号 03-6700-1760
メールアドレス k.soyama@shk-partner.jp
主なサービス 社会福祉法人、株式会社、NPO法人…営利非営利種別を問わず、すべての保育事業者様の総合経営パートナーとして、《人事労務》《会計経理》《採用戦略》に関する3つのサポートを提供します。社会保険労務士としての専門業務のみならず、保育事業者様の抱える経営課題を《人財》の面から解決します。
ホームページ https://www.shk-partner.jp/
取材日:2020年2月3日
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