感情労働からの脱却で保育士の働き方を変える~そやま保育経営パートナー 楚山和司氏インタビュー

感情労働からの脱却で保育士の働き方を変える~そやま保育経営パートナー 楚山和司氏インタビュー

保育現場の働き方を改革するには

そやま保育経営パートナー 楚山和司氏

保育ネクスト
労働時間の問題はなぜ起こるのでしょうか。

2017年4月のマクロミルの調査結果で「保育士有資格者300名に聞く 保育士・保育園に関する調査」というものがあります 。

参考サイト 保育士300名に聞く「保育園問題」(マクロミル調べ)

それによれば、賃金が低い、労働時間が長いという絶対値の問題ではなく、それらが連動していないことが辞める理由になっていました。
低賃金でも休みがとれて定時で帰れるならいいかもしれませんが、低賃金で、なおかつサービス残業。額面は高額でも、内実は非常に労働負荷が高く、アンバランスだから辞めてしまうわけです。

なぜ労働時間長時間になってしまうのか。
医療福祉の現場では「感情労働」という言葉が使われますが、社労士としての立場からすると、そこに反省すべき点があるのではないかと思います。
たとえば、保育の中では「行事」が大きな比重を占めていますが、子どものため、保護者のためという大義名分のもとに、ものすごく手の込んだ作り込んだイベントが企画され、さらに保護者の期待や前例化でそれがエスカレートして引くに引けなくなり、かかる時間が毎年雪だるま式に増える例がある。
それが昨今の働き方改革の流れで「早く帰ろう」ということになると、持ち帰ってしまう、つまり隠れ残業をよしとする風土があるわけです。

大義名分や倫理観にとらわれることをすべて否定するわけではありませんが、それによって損なわれていることもある。野放図に残業代を出せるかというと、先ほど言ったように限界があるわけですから、もう少し大きな視点で働き方を考えないといけないと思います。

保育ネクスト
保育の仕事の生産性を高くするためにはどうしたらいいのでしょう。

厚労省は生産性を高めるための事業分野別指針を出しており、その中に保育業界についても書かれているのですが、私は保育には生産性という考え方は相いれない感じがしています。

厚労省の指針では、ある意味あっけらかんと、いわば経験年数がニアリーイコールで生産性の高まりと言えるだろうと書かれています。
経験が蓄積されていけば、質を保ちながら手間が省けるような手法を見出せるようになる、という蓋然性を見立てているのでしょう。

ただ、私からするとちょっと視点が違うと思います。福祉人材に共通していることですが、やっぱり年数では測れません。意識の問題というか、つねに改善という意識で見ていかなければならないんです。
子どもの命を預かるためにすごくマニュアルが徹底している世界ですから、経験年数とイコールとは言えないと思うんですよね。

やはり一番は、保育の質とは何かと考える、問い直すことです。
先ほどの行事の例で言えば、見栄えの良さを求めるのは誰のためなのか。保護者のためだったりするわけですね。
子どもたちが真剣に整然と動いて、保護者や職員にとって感動的な演出になるものを「質」と考えてしまうと、大人のための仕事になってしまい、「質」とは言い切れないものになってしまう。
100の労力をかけてきた行事を80の労力でとどめ、残りの20を子どもたちにかける時間に割いたり、それこそ昇給などの人件費に割いたりするべきだと思うんです。

当たり前のようになっている保育の質、保育士に不可欠とされてきた要素が今の時代に合っているのか、保護者から求められているのか、自己満足なのではないかと問い直して、外注したり、廃止・縮小したり、毎年やらずに隔年か5年に1回にしたり、業務の優先度や軽重を整理すべきだと思います。

あとはICTの活用ですね。
マニュアルな業務が多い世界ですから、AIやIoTのテクノロジーを活用して、保育士2人でやっていたことを1人とか1.5人で済ませることができれば、負荷を低くできると思います。

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