近年の保育士不足を解消するために2015年に法律が制定され、「地域限定保育士」という制度ができました。特定の地域でのみ働ける保育士のことです。
今回は地域限定保育士のことをよくご存じでない方のために、通常の保育士との違いや特徴、メリット・デメリットを解説します。
この記事のもくじ
地域限定保育士とは、「特定の地域でのみ働ける保育士」のこと
「地域限定保育士」というのは通称で、正式には「国家戦略特別区域限定保育士」と言い、「特定の地域のみ働ける保育士」のことを指します。
地域限定保育士は、2015年に「国家戦略特別区域法及び構造改革特別区域法の一部を改正する法律」にて創設された制度に基づいています。この法律がつくられた背景には、保育業界における「保育士不足の解消」という目的がありました。現場で働く保育士の負担の増加や、待機児童問題を解決するために新しい保育士資格として誕生したものです。
地域限定保育士になるには受験する必要がありますが、合格して地域(受験した自治体)に登録されると、それから3年間はその地域でしか勤務できません。
すべての地域で地域限定保育士を募集しているわけではなく、枠がたくさんあるとは限らないので、地域選びは慎重に行う必要があります。
その地域に住んでいなくても受験はできますので、働きたい地域と、募集している地域が同じだったら、受験を検討してみる価値があるかもしれません。
地域限定保育士の特徴!通常の保育士との違いは?
地域限定保育士には3つの特徴があります。
- 働ける地域が限定されている
- 登録して3年経過すると全国で働ける
- 業務内容は通常の保育士と同じ
通常の保育士との違いも踏まえながら、くわしく説明していきますね。
地域限定保育士のポイント①
働ける地域が限定されている
何度も書くように、地域限定保育士は働ける地域が限定されています。
これまで地域限定保育士を募集していた地域には次のようなところがあります。
- 神奈川県
- 大阪府
- 沖縄県
- 千葉県
- 仙台市
ただし、これらの自治体も含めて、毎年同じ自治体が、地域限定保育士を募集するとは限りません。試験を受けたい場合は、各自治体の公式ホームページをチェックしましょう。
神奈川県は頻繁に地域限定保育士を募集している
全国の中でも、神奈川県では定期的に地域限定保育士を募集しています。
2021年には前年と同様に年2回実施されている全国共通の保育士試験のほか、年3回目となる神奈川県独自の地域限定保育士試験を実施する予定になっています
(2021年分の募集は現時点では締め切り済みです)。
筆記試験日:2021年8月14日(土曜日)、15日(日曜日)
実技講習会:2021年10~11月(この期間に5日間程度)
地域限定保育士のポイント②
登録して3年経過すると全国で働ける
地域限定保育士は、登録後3年経過すると、通常の保育士と同じように全国で働けるようになります。
受験した地域で一度も実務経験がなくても、登録から3年が経過すれば全国で働くことが可能です。
つまり、地域限定保育士の資格を取得して別の仕事をしていても、3年経てば通常の保育士と同じように勤務できるということです。
資格取得後に結婚や出産、別の地域への引越しなどをしても、保育士として復帰できます。
地域限定保育士のポイント③
業務内容は通常の保育士と同じ
地域限定保育士は、通常の保育士と名称が異なっていても、業務内容自体に大きな違いはありません。
- 子どもの受け入れ・引き渡し
- 子どもの身の回りのお世話
- 食事・午睡の援助
- 製作や運動、音楽活動などの「主活動」の実施
- 事務仕事(連絡帳、日誌、週案)
- 掃除・おもちゃの消毒・雑務
通常の保育士と同じように、上記の業務を任されることになります。
地域限定保育士資格の取得から働くまでの流れ
地域限定保育士資格の取得から働くまでの流れは以下の通りです。
- 地域限定保育士試験を受ける
- 地域限定保育士試験に合格した後に登録手続き
受験を検討する前に、この流れを把握しておきましょう。
地域限定保育士になるまで①
試験を受ける
地域限定保育士になるためには、まずは地域限定保育士試験を受けなければなりません。
試験日や受験申し込み期間は自治体によって異なるので、あらかじめ勤務したい自治体の公式ホームページを確認しておきましょう。
詳細は次の通りです。
受験資格 | 通常の保育士試験と同じ |
---|---|
合格率 | 22.0%(平成27年) |
試験内容 |
|
合格ライン | 通常の保育士資格と同様、筆記試験は100点満点のうち60点(6割)以上 |
筆記試験に合格した場合、保育実技講習会を受ければ実技試験は免除される |
受験資格や試験内容は、基本的に通常の保育士試験と変わりません。
ただし、神奈川県のように、筆記試験に合格すれば実技試験が免除される自治体もあります。神奈川県の場合は、その代わりに保育実技講習会を受けなければなりませんが、試験ではないので受験者の負担は大きくありません(保育実技講習会については、次の項目でくわしく説明します)。
地域限定保育士試験になるまで②
合格したら登録手続きをする
みごと試験に合格したら、その地域の都道府県(または政令市)に登録します。
登録手続きを行うと、「国家戦略特別区域限定保育士登録証(地域限定保育士証)」が交付されます。
その後は、晴れて地域限定保育士として業務を開始できます。
地域限定保育士資格のメリット
地域限定保育士の資格を取得することには、どんなメリットがあるでしょうか。
- 合格科目の引継ぎがある
- 実技試験が免除されるケースがある
- 仕事を見つけやすい
詳しく説明していきますので、地域限定保育士について理解を深めてくださいね。
地域限定保育士のメリット①
合格科目の引継ぎがある
地域限定保育士試験と、通常の保育士試験との間で、合格科目を「引継ぐ」ことができます。
どういうことかというと、地域限定保育士試験で合格した科目は、その次に通常の保育士試験(全国)を受けるときに、免除されるのです。
例えば、地域限定保育士試験の筆記試験で全科目を合格した場合は、翌年の通常の保育士試験で実技試験のみの受験となります。地域限定試験で2科目合格して、通常の保育士試験で5科目、翌年の通常の保育士試験で残りの1科目と実技試験に合格した場合は、地域限定保育士資格ではなく、通常の保育士資格が付与されます。
不合格になって資格取得にいたらなくても、合格のチャンスが何度もあるということは、地域限定保育士試験の大きなメリットでしょう。
地域限定保育士のメリット②
実技試験が免除されるケースがある
上にも書きましたが、神奈川県のように、筆記試験に合格すれば実技試験が免除される自治体もあります。その代わりに、次のような保育実技講習会を受けることになります。
- 音楽表現に関する演習(90分×4コマ)
- 造形表現に関する演習(90分×4コマ)
- 言語表現に関する演習(90分×4コマ)
- 保育実践見学実習の事前指導(60分)
- 保育実践見学実習(1日)
- 保育実践見学実習の事後指導(120分)
合計27時間(約5日程度)、上記の講習を受ければ、修了認定が行われます。
地域限定保育士のメリット③
仕事を見つけやすい
仕事を見つけやすいということも、地域限定保育士のメリットと言えるでしょう。
地域限定保育士を募集している地域は、基本的に保育士が欲しい保育園が多い地域です。試験に合格すれば、比較的楽に保育園に就職できるでしょう。
地域限定保育士資格のデメリット
地域限定保育士の資格には、次のようなデメリットもあります。
- 受験費用の免除や控除はない
- 3年間は働く地域が限定される
- 試験の実施が未定の場合もある
これらのデメリットから、受験するときに留意すべき点を解説します。
地域限定保育士のデメリット①
受験費用の免除や控除はない
地域限定保育士試験では、受験費用の免除や控除はありません。
通常の保育士試験と同じ受験料(受験手数料12,700円+受験申請の手引き郵送料250円)なので、出願するたびに費用が発生します。受験の際は金額をしっかりと把握して、正確な料金を振り込みましょう。
地域限定保育士のデメリット②
3年間は働く地域が限定される
3年間は働く地域が限定されるということも、デメリットの一つです。
受験した自治体の保育園に3年間勤務することになるので、急な引越しなどは難しいかもしれません。
ただし、登録から3年間は実務に就いていなくても、3年経てば自動的に全国で働ける保育士になれるので、その間に引越しや結婚、出産などがあっても、柔軟に対応できます。
地域限定保育士のデメリット③
試験の実施が未定の場合もある
地域限定保育士試験は、毎年同じ地域で行われるとは限りません。
ある年には実施しても、次の年には実施しないということもあります。
「全国保育士養成協議会」の公式ホームページによると、現時点では2022年の開催は「未定」となっています。開催する地域、開催日などは、各自治体の公式ホームページをチェックしましょう。
地域限定保育士として地域に貢献するという選択肢
地域限定保育士は、合格科目の引継ぎや、実技試験の免除、仕事の見つけやすさなど、さまざまなメリットがある資格です。試験に合格して、登録から3年が経過すれば、通常の保育士と同じように、全国どこでも働けるようになります。
働きたい地域が決まっている場合は、ぜひ地域限定保育士を目指してみてはいかがでしょうか。