「将来は独立して保育園を経営したい」という保育士もいると思います。近年、さまざまな企業や法人、さらに個人でも保育園を開業することもできるようになっています。これは保育園の設置基準が緩和されたためです。
今回は、保育士が独立して保育園を設立&経営する方法や、経営に必要な資格や費用について解説します。保育園の経営に興味がある人はぜひチェックしてみてください。
保育園を設立&経営するために必要な資格
保育園を経営するのに特別な資格は必要でしょうか。
「保育園経営」と「資格」の関係性について解説します。また、経営に役立つおすすめの資格も紹介するので、経営スキルを身に付けたい人は要チェックです。
保育園の経営に資格は特に必要ない
結論から言いますと、保育園の経営に資格は特に必要ありません。
「保育園の経営者なら、保育士資格は必要なのでは?」と疑問に思う人もいますが、経営者に必要なのはあくまでも「経営者としてのスキル」で、保育士資格や、保育士としての実務経験などは問われません。
もちろん、保育士として働いた経験があれば、従業員からも頼りにされる経営者になるでしょう。自身の保育観も保育理念として掲げられるので、保育士が独立して保育園を経営するのは、キャリアプランとしておすすめです。
ただし有資格者の従業員がいなければ保育園は開園できない
経営者に資格は不要ですが、従業員の一定数以上は資格を持っていなければなりません。
児童福祉施設最低基準第33条第2項では、保育園の人員配置を次のように定めています。
- 0歳児:3人につき1人
- 1歳・2歳児:6人につき1人
- 3歳児:20人につき1人
- 4歳児:30人につき1人
認可保育園の場合は保育士のほか、嘱託医や調理員の配置も必置です。
一方、認可外(無認可)保育園の場合は、保育者のおおむね3分の1以上は、保育士または看護師の有資格者であることが定義付けられています。
配置基準は保育園によって異なるので、「どんな形態の保育園にするか」を決めてから人員配置を考えるのがポイントです。
参考:厚生労働省「保育所の設備運営基準」
認可外保育施設指導監督基準
保育園の経営に役立つ資格とは
保育園の経営には特別な資格は必要ありませんが、取得すれば経営に役立つ資格はたくさんあります。
保育園の経営におすすめの資格を3つピックアップしてみました。
- チャイルドマインダー資格
- 簿記検定
- 中小企業診断士
チャイルドマインダー資格は、イギリスで生まれた「家庭保育のスペシャリスト」の資格です(民間資格)。
0歳~12歳の子どもを対象に少人数制の保育が実践できるので、小さな託児所を経営したい人にもおすすめです。
簿記検定は、お金に関する取引を帳簿に記録する検定です。
経理のスキルが身に付くので、取得して損はないでしょう。
そのほか、経営に関するコンサルティングを行う国家資格「中小企業診断士」も、経営者志望者の中でかなり人気です。
保育園を設立&経営するために必要な費用
保育園の設立・経営に必要な費用の種類は主に3つあります。
- 初期費用
- 運営資金
- 借入れ
お金がかかる項目や、カテゴリーそれぞれの金額の目安を確認して、予算を立てましょう。
保育園設立・経営の資金①
初期費用
保育園を開業するためには、不動産取引費用や工事費用、備品費用などを含む「初期費用」がかかります。
詳しい初期費用の内訳の目安は次の通りです。
初期費用の項目 | 費用の内容 | |
---|---|---|
不動産取得費 | 施設(物件)の購入費用や保証金、賃貸料など | 150万円 |
内装工事費用 | 内装デザインや素材など、費用施設の内装にかかる費用 | 150万円 |
設備費 | 施設や設備を維持するための費用 | 140万円 |
おもちゃ・絵本・机・いす・パソコンなどの備品や、トイレットペーパーや消毒液などの消耗品にかかる費用 | 60~100万円 | |
広告宣伝費 | チラシ・パンフレット・ポスターなどの発行・配布にかかる費用 | 50万円 |
※20坪程度、園児20~30人程度の施設の場合
基本的に、保育園開業にあたって500~600万円程度の初期費用がかかります。
日本政策金融公庫の調査によると、一般的な開業には1,000万円程度が必要とされているので、保育園の開業のハードルは比較的低いと言えるでしょう。
もちろん、保育園の形態や規模によって初期費用の金額は変動するので、詳しい金額を知りたい場合は保育園開園コンサルサポートを活用してみてください。
保育園設立・経営の資金➁
運営資金
保育園を経営するためには、初期費用のほか「運営費用」もかかります。
運営費用は、保育園を運営するために必要な費用です。
初期費用(備品費・消耗品費を除く)とは違って、ランニングコストがかかります。
- 人件費…180万円
- 賃貸料…45万円
- 水道光熱費…6万円
- 給食費…12万円
一般的な保育園の運営費用は月200~300万円です。
施設の規模によって異なりますが、基本的に運営費の半分以上は人件費です。
運営を委託している場合は、委託費用や手数料などもかかります。
ただ、都道府県に認可されている「認可保育園」や、認可外保育園の一種である「企業型保育園」は国や自治体から補助金が支給されます。
保育園設立・経営の資金③
必要に応じて借入れも
初期費用が上記に満たない場合や、国や自治体から補助金がもらえない場合は、金融機関からの借り入れも可能です。
保育園を開業するために資金調達をするなら事業計画書を練った上で、金融機関に相談してみましょう。
ここで注意すべき点は、借り入れる際には一定の自己資金が必要という点です。
少なくとも資金の3分の1、可能であれば2分の1程度の自己資金を用意しましょう。
参考:日本政策金融公庫 総合研究所「2013年度新規開業実態調査」
保育園を設立・経営するステップ
保育士が独立して保育園を設立・経営するときの流れを解説します。
今回は、小規模の認可保育園を開業する場合の手順を例として挙げます。
自治体によって流れは異なるので、実際に開業する際は保育園の設置を検討している自治体に問い合わせましょう。
保育園の設立・経営ステップ①
保育園の種類を決める
まずは、設立する保育園の種類を決めましょう。
保育園は認可保育園、認可外保育園に分かれています。
認可外保育施設 | 認可保育所 |
---|---|
|
|
認可保育園は補助金の対象で、経営が安定しているのが特徴です。
一方、認可外保育園は補助金の対象ではありませんが(企業主導型保育事業を除く)、自由度の高い保育を実践できます。
上の表の中で言うと、認可保育園の「小規模保育園(小規模保育事業)」がおすすめです。
小規模保育園の定員は6~19人、対象年齢は0~2歳で、金融機関からの融資が受けやすいので、開業のハードルは低いと言えます。
4~5カ月ほどで開業可能なので、早めの開業を希望する事業にはぴったりでしょう。
保育園の設立・経営ステップ➁
法人の種類を決める
保育園の種類のほか、法人の種類も決めておく必要があります。
- 株式会社…営利目的
- 合同会社…営利目的、出資を受けられる範囲が狭い
- 社会福祉法人(学校法人)…非営利目的、公的な支援や助成を受けやすい
保育園の設立・経営ステップ③
事業計画書の作成
開業する時期や内装デザイン、職員数を決めたら、それらを事業計画書としてまとめましょう。
保育方針や施設配置図、人員配置、保育時間を定めて、さらに経営戦略などを記載します。
開設予定地や物件もこの時点で決めておきましょう。
自分でまとめるのが不安な場合は開業コンサルタントと契約して、計画書の作成を依頼するのがおすすめです。
自治体によって施設の設置基準が設けられているので、必ずチェックしてから計画書を作成しましょう。
八王子市「認可外保育施設の開設をお考えの方へ」
保育園の設立・経営ステップ④
事業計画書提出~工事
事業計画書を自治体に提出して、計画承認書が発行されたら、建築確認申請ができるようになります。
建築確認申請を終えたら、いよいよ保育施設の工事がスタートします。
この段階になると自治体への書類提出のほか、損害保険会社や給食業者、提携小児科クリニックなどの提携業者との契約が必要なので、忘れずに契約終結しましょう。
保育園の設立・経営ステップ➄
正式に認可されたら開業
保育施設の賃貸物件契約後(もしくは購入後)の工事が終わったら、自治体から現地確認を受けます。
現地確認で追加工事の指示がなければ、許可申請へと移ります。
その後、自治体から承認を受けたら正式に開業です。
準備を整えて保育園を設立&経営しよう!
保育士が独立して保育園を設立・経営するのに、特別な資格は必要ありません。
ただ、チャイルドマインダー資格や簿記検定、中小企業診断士などの資格があれば、経営に有利です。
保育園を設立するときは、保育園の形態を決めてから事業計画書を作成して、工事を経て開業するのが一般的な流れです。
「開業したいけど、一人では不安…」という人は、開業コンサルタントにサポートしてもらいましょう。
また、独立せずに特定の保育園で長年勤めて、研修を受けて園長になるといったキャリアルートもあります。その場合は、長い間働ける保育園を探すことがキャリアを築くポイントです。転職サイト・エージェントを利用して、働き続けやすい好条件の保育園を探しましょう。
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