社労士から見た保育所経営のトレンド ~和道経営舎 小林信宏代表インタビュー
保育士の定着を阻む待遇・メンタル・人間関係の問題
やはり一番の課題は採用と定着です。
世間には保育士の給料が安いというイメージがありますが、私は今はそうでもないと思います。ここ4、5年、国や地方自治体が支給する処遇改善加算がありますから、中堅の保育士なら前年より2%、3%と総支給が上がるようになったので、楽とまではいかなくても、それなりに安定した職種だと思うんです。
最初から高い給与でなかなか上がらないか、最初は多少低い給与でもだんだん上がっていくか。これは園がどういう人を必要とするかに関わる話で、欲しい人材を明確にして、それに合わせて賃金制度、人事制度を作り変えていくべきだと思うんです。
処遇改善加算Ⅰの「1.処遇改善の対象者の決定」は園に委ねられています(内閣府子ども・子育て本部「技能・経験に応じた保育士等の処遇改善について」)から、比較的自由に分配できます。全員に一律同じ金額を支給する園もありますが、若い保育士に手厚くするか、有資格者や研修を受けた保育士に手厚くするか、メリハリをつけて、必要なところに支給することもできます。実力不足の人の給料を上げてしまうと、力がある若手と伸び悩んでいる中堅で金額的な差が出ることもある。そうならないためには、ちゃんと人を見て評価する仕組みが必要なんです。採用、定着をする上で、いかに処遇改善加算を効率よく分配し、それを活かした人事制度を作っていくことですね。
最近はメンタル不全になる保育士がかなり増えていますし、パワハラの訴えも発生しています。ただパワハラはよく状況を精査しないといけません。私は、子どもの安全と安心が脅かすような保育をしている保育士には毅然と指導すべきだ、パワハラを過度に恐れてはいけないという話は園長研修などでしています。
保育園は女性が多い職場ですから育児休業も積極的に認めています。しかし園の規模によっては、育児休業させられる職員数には限界があります。園児60人ほどの規模なら2人くらいまでは育休で9時~16時までのコアタイム勤務でも大丈夫ですが、それが3人になるとシフトが回らなくなり、他の職員が早出、遅出、土曜日出勤をやらなければならなくなって、独身の保育士や子育てが終わった人たちにしわ寄せがいってしまいます。保育士の子育ては支援しなければなりませんが、その子育てを支援する子のほうもちゃんと見てくださいねと言っています。
ネットやニュースで古い園には子どもを産む順番というものが暗黙のうちにあって、それを守らないと駄目、なんて話が存在するので、不安になる保育士も出てくるようです。
育児休業でお休みに入るのは当然起こること、そこまで考えて、基準よりも人数を多く配置しておいてくださいと言うのですが、貰える運営費は決まっていますので、その分人件費が厳しくなります。1人目を産んで復帰して今度は2人目ということもありますから、「若い職員はそういうことも考えて配置しておかないといけない」と話しています。
比率でいくと、「待遇」より「人間関係」のほうが多いですね。
方針の違いなどは、園が目指している保育をあらかじめちゃんと伝えることができますが、人間関係は入ってみないと分かりませんから。いきなり正社員で採るのではなく、お試し期間として契約社員で来てもらってから、正社員登用したほうが経営者は安心できると思います。しかし、かといって契約社員募集だと、正社員募集でも来ないわけですから、なかなか採用できなくなる。厳しい現状です。