風と日光という「自然」を活かした保育園の建築デザイン~建築家・井出敦史氏インタビュー

風と日光という「自然」を活かした保育園の建築デザイン~建築家・井出敦史氏インタビュー

建築としての保育園は、そこを初めて訪れた子どもたちの第一印象を大きく左右します。開けた空間と明るい色調を活用した設計は、子どもたちの心を揺さぶり、冒険に駆り立てる作用があります。安全性と機能性に気を配りながら、子どもたちが自主的に遊びはじめるような環境づくりは、建築家としても腕の見せどころではないでしょうか。
自然との関わりを大切にしながら、考え抜いた意味と意思を形にしたデザインを創造する株式会社サムデザインの井出敦史氏に、保育園の建築デザインについて伺いました。

保育園設計第1作でグッドデザイン賞などを受賞

保育ネクスト

井出さんとサムデザインのご紹介をお願いします。

弊社は父の代から48年、設計事務所をやっております。私の代になってからちょうど10年目です。
私はボストンに留学して建築を学び、帰国後は2002年まで丹下健三・都市・建築設計研究所を経て父の会社(当時はSUM建築研究所)に入所しました。
丹下事務所では海外プロジェクトに多く携わり、イタリアの都市開発やシンガポールの高層住宅、台湾の再開発、香港の九龍タワーのコンペにも参加、国内ではザ・プリンスパークタワー東京等に携わりました。
父、井出共治は、斜面に建つ集合住宅の設計を得意としていて、「斜面の魔術師」という異名をもつ設計者でした。斜面は、設計(土木と建築を融合する事等により)によって平たい土地より魅力的になる可能性を秘めています。そんな父も11年前に亡くなり、私が代表になりました。
集合住宅が良く売れた90年代とは異なり、昨今の集合住宅の設計を建築家が手がけられるチャンスは少なくなりましたが、先代の設計手法を踏襲し、個人邸、別荘、老人福祉施設や保育園、商業施設、等多岐にわたり設計に携わっています。

保育ネクスト

建築デザインにおいて重視していることは?

敷地を読み抜くことです。
とくに私が重要視するのは、周辺環境(借景)と風の流れです。風がどこからどこに流れるか、どこの景色が良いか、敷地を分析して配置計画をします。
古来からある「風水」の考え方も参考にします。「風水」は湿度の高い時季に風上に腐りやすいものを置いてはいけないとか、排泄物がある場所の先に食卓があると病気になりやすいとか、設計理論上、とても理にかなっています。つまり単なる占いではなく、より良い住環境を造る上での統計学なんですね。
また、古い日本木造建築も参考にしています。日本家屋は、高温多湿で、四季のある日本で、いかに快適な環境が造れるかを現在の空調設備や建材に頼らず、先人たちが導き出した建築知識なので、日本で建物を建てるならその知恵を活かすべきだと思います。
自然に抗うことはできませんから、その流れに沿った配置計画や空地の取り方、開口の取り方を考えればより効果が高くなりますから、その敷地に合った設計していくことに重きを置いています。

保育ネクスト

保育園の設計はどのくらい手がけていらっしゃるんですか?

2020年現在、保育園はまだ2つで、今もうひとつ手がけているものがあります。
横浜の「川和保育園」が第1作目で、グッドデザイン賞、横浜市の建築コンクール、キッズデザイン賞などをいただいて有名な園になりましたので、それをきっかけにお話をいただけるようになってきています。

川和保育園
川和保育園(横浜市都筑区 敷地:2355.77㎡ 延床面積:1262.60㎡)
グッドデザイン賞、平成30年度第62回神奈川建築コンクール一般建築部門優秀賞、2018年度第14回こども環境学会賞デザイン賞を受賞

 
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