お絵描き(スクリブル)で測る子どもの成長

お絵描き(スクリブル)で測る子どもの成長

幼児期の子どもが描くグチャグチャのなぐり書き(スクリブル)は、その後の表現活動につながる大切なプロセスです。保育士は、こうした表現活動に対してどんなふうに援助すべきでしょうか?
今回は、月齢別のスクリブルの特徴や、援助のポイントを紹介します。

スクリブルとは?

どの子どもも幼児期に描くのが「ぐちゃぐちゃ」「めちゃくちゃ」のなぐり書きです。
これを英語でスクリブル=Scribbleと言い、お絵かきの第一歩とされます。
まずは、スクリブルがどんなものなのか、子どもの発達段階をあわせて解説していきます。

スクリブルは「なぐり書き」のフェーズ

1歳半あたりからみられる「なぐり書き」、スクリブルはどのようにして生まれているのでしょうか。
幼児期前半の子どもは、脳と手腕の動きが連動していないので、イメージしたことをそのまま忠実に絵に起こせるフェーズになっていません。
そこで、まずはクレヨンやペンを紙の上に叩くようにして色をのせたり、点や線を描いたりしている状態です。
このように、握る、上下左右に動かす、叩くなどの体験を重ねていき、少しずつ絵を描くことやイメージを表現することを学んでいくことになります。

平面表現を立体的に表現する活動

子どもは、乳児期からなめる、しゃぶる、転がすといったさまざまな探索活動を経て、やぶる、ちぎる、という「立体的な表現」を会得していきます。
こうした活動を重ねてから、「平面での表現」、つまりお絵描きの活動に移ります。
ただ、この段階では、スクリブルは立体的な表現の延長にあることがほとんどです。
子どもは、何かを紙の上に再現する目的に描いているのではなく、ただ点や線を叩いたり、腕を動かしたりして、描くという動作を楽しみながらスクリブルを描いているのです。

スクリブルの種類

子どものスクリブルで多くみられる形をまとめてみました。

  • 縦線
  • 横線
  • 円線
  • 斜線
  • うねうね線
  • ジグザグ・なみなみ線
  • わっか
  • うずまき

スクリブルは子どもの身体の発達と密接に関係していますので、子どもの手腕の動きが発達するにつれ、絵の描き方も変わっていきます。
次の章では、年齢別にスクリブルの特徴をみていきましょう。

年齢別の「スクリブル」の特徴

スクリブルの描き方は、子どもの年齢によって変化していきます。
スクリブルの特徴を年齢別にチェックして、表現の成長をみていきましょう。

1歳前半のスクリブル

1歳前半は押す、引っ張る、転がすなどの全身運動や、つまむ、ちぎる、たたく、握るなど手を使う遊びを始める時期です。
この時期、無秩序な短い線・点をはじめ、一定の方向性を持った長い線、ジグザグ線などのスクリブルがみられます。
その後は、半円、うねうね線といったスクリブルを描くようになります。

1歳後半のスクリブル

1歳後半という年齢は、手指の細かい動きが発達し、積み木を積んだり、シールなどを貼りはがしたりする時期にあたります。
この時期は、これまで描いていた点や線だけでなく、日常生活から刺激を受け、それを表現しようとする兆しが見えはじめます。
具体的には、点、直線、うねうね線、不完全な円、わっかに加え、三角形や四角形の原型となる形態を描くようになります。
また、保育士の描き方を真似したり、共同作業を楽しんだりするようになるのもこの時期からです。
いわば保育士とコミュニケーションを取りながら、体験や気持ちを表現していくのです。

2歳のスクリブル

2歳になると、全身運動が滑らかになるだけなく、指先の操作も発達し、粘土遊びやクレヨン、はさみなどの道具を使って描いたり作ったりするようになります。
この時期から、これまでのスクリブルとは一線を画す「円」を描き始めます。
この円は、偶然できた図形ではなく、「何かを描こう」という意思が込められたものです。
イメージを円や線で描いたり、描く絵に「ママ」「パパ」「くるま」といった意味づけをしたりして、表現の幅が広がっていきます。
これまで無秩序に点や線を描いてきたのとは違い、線を重ねた部分とは別の場所に円を描くといった「選別」が見られるでしょう。

3歳~4歳半頃のスクリブル

3歳になると円を基本的な形として「人」「木」「くるま」などを意図的に描き分けるようになり、自分のイメージを表現しはじめます。

【3歳~4歳頃によくみられる円形】

  • 同心円(円を包む図形)…円の大きさの変化によってものを描き分ける
  • マンダラ図形(放散形)…円と十字線でものの形を表現する
  • 太陽図形…同心円から放射線状に線が出ているもの
  • 頭足人…人の形が胴体・頭部が一体になった表現

だんだん、大人にも「これは○○を描いているんだな」とある程度判別できるようになってくる時期です。
ただし、この段階では「一つのキャンバスに、連続性のある絵を描いている」という意識はまだありません。
一枚の紙に複数の絵を描いても、個々のつながりはない「並べ描き」の状態です。

4歳半~5歳のスクリブル

4歳半以降になると、絵のスキルが上達し、リアリティのある絵を描けるようになります。
これまでのつながりのない絵とは異なる、「一枚の絵」として描くことが増えてきます。
地面や水面を示す線、空間を囲む線など、空間を意識した表現も見えはじめます。
「頭足人」から「胴」が生えたり、「空」の象徴として「太陽」を描いたりするようにもなるでしょう。
この時期のスクリブルの特徴は、「ものの大小を気にしていない」「くるまや家の中が透けているような表現をする」といったことです。
表現が豊かになってきたとはいえ、まだまだ成長途中ですが、今後、さらにリアルな表現を身に付けていきます。

保育士が「スクリブル」に援助するポイント

保育士は子どものスクリブルに対してどのような援助をするべきでしょうか?
お絵かきの活動で保育士が気を付けるポイント、配慮すべきポイントを紹介します。

子どもの表現を尊重する

スクリブルは、大人には「ぐちゃぐちゃ」「めちゃくちゃ」であるように見えます。
思わず正しい描き方を教えたくなってしまうかもしれませんが、ここで大切なことは、子どもの表現を尊重することです。
大人目線で絵の「良し悪し」を評価すると、子どもの情緒的な発達や感性の成長を妨げてしまうことになります。
子どもの表現の幅を狭めるのではなく、まずは子どもに「自由に描かせる」ことを意識しましょう。
「今日は太陽さんお顔出してたね」
「ワンワン鳴いてたね」
そんな言葉で一日を振り返ったり、
「大きな丸だね」
「これは○○かな?」
というように反応・共感することも重要です。
子どもの表現を尊重しつつ、コミュニケーションを取って、感性を刺激してみましょう。

クレヨンや絵の具の使い方に注意する

1歳あたりだと、まだクレヨンや絵の具、ペンなどを握って描く動作がおぼつかないはずです。
折って落としてしまう、誤って飲み込んでしまうといったことが起こらないように、保育士は常に見守り、必要であれば援助しましょう。
子どもの主体性を妨げない程度に、「こうやって描くんだよ」とお手本をみせたり、最初だけ手を添えて腕の動かし方を伝えたりするのは構いません。

描いてはいけない場所を伝える

子どもがスクリブルを描く際は、「描いてはいけない場所」を明確に伝えることが重要です。
初めのうち、子どもは「紙の中」に点や線がおさまるようにコントロールすることは難しいと思います。
そのため、紙の下に新聞紙やチラシを敷いて、紙の上から点や線がはみ出そうになったら、それとなく、「ここじゃなくてこっちに描こうね」などと誘導するサポートを行いましょう。

表現の「元」になる体験を重ねる

子どもの想像力や表現力を養うためには、その元となる体験が必要になります。
たとえば絵本を読んだり、散歩をしたり、動物や自然と触れ合う機会を作ったりして、子どもにインスピレーションを与えることを意識してください。
子どもと一緒に公園や園庭で落ち葉や木の実を拾ったり、空を指さしたりして、
「飛行機、飛んでるね」
「雲さん動いてるね」
と声をかけるなど、日常生活の中で「発見する体験」を重ねてきましょう。

子どもの独り言に注目

スクリブルの点や線だけでは、子どもが何を描こうとしているのかを読み取れないこともあるでしょう。
そんなときは、子どもの独り言に耳をすませてみてください。
「ブーブー」「ママ」「パパ」といった子どもの独り言に、子どもが表現したいことのヒントが隠れているかもしれません。
子どもの独り言や、保育士に対する「これは○○なんだよ」という言葉かけには、しっかりと反応・共感し、褒めてあげることで、子どもの創作意欲を引き出すことにつながります。
子どもが表現したいことに応じて、具材や素材を変えてみると、さらに表現の幅が広がりますよ。

スクリブルから子どもが見る世界を想像しよう

子どもはスクリブルで点や線を描いていくうちに、少しずつ円や人を描くようになり、やがてイメージしたものをよりリアルに描くようになります。
日常的に絵本を読み聞かせしたり、散歩に連れて行ったりすることで、子どもの想像力や感性が次第に養われていきます。
保育士は、こうした表現の元となる体験を意識的に実践し、コミュニケーションをとりながら、子どもの表現活動をサポートしましょう。
 
お絵描き(スクリブル)で測る子どもの成長
 

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