保育の仕事をしている方なら、「モンテッソーリ教育」という言葉をお聞きになったことがあると思います。
モンテッソーリ教育は、マリア・モンテッソーリ博士によって考案された教育方法です。
教具(おもちゃ)をそろえ、子どもの自主性や創造性を養う「環境作り」を基盤としていることが特徴で、アメリカやヨーロッパを中心に注目を集めています。
今回は、モンテッソーリ教育の特徴や具体的な教育内容について解説します。
モンテッソーリ教育とは?3つの特徴
アメリカやヨーロッパ、さらに韓国や台湾を始めとするアジアでも盛んに取り入れられているモンテッソーリ教育。
日本でモンテッソーリ教育を取り入れている保育園・幼稚園の数は発表されていませんが、確認できる施設数としては120件ほどがあるようです。
アメリカの前大統領バラク・オバマ氏や、マイクロソフトの創立者ビル・ゲイツ氏、最近話題のプロ棋士藤井聡太氏も、モンテッソーリ教育を学んだ人物として有名です。
世界各国から注目を集め、多くの成功者を輩出しているモンテッソーリ教育とは、はたしてどんな教育方法なのでしょうか?
モンテッソーリ教育の歴史や教育内容をご紹介していきましょう。
マリア・モンテッソーリ博士考案の教育方法
モンテッソーリ教育が考案されたのは今から100年以上前のことです。
1900年代初期、イタリア初の女性医学博士マリア・モンテッソーリは、知的障害児への教育を経験した後、保育施設「子どもの家」を設立し、独自の教育方法を実践しました。これがモンテッソーリ教育の始まりと言われています。
モンテッソーリ教育は、「子どもにはもともと自分自身を育てる力が備わっている(自己教育)」という概念が基盤になっています。
保育者の仕事は「子どもに何かを教え込むこと」ではなく、本来子どもに備わっている力を引き出す「環境」を作ること。
つまり、子どもの「主体性」を何より重んじる教育方法がモンテッソーリ教育です。
4つの発達段階に分けた教育
モンテッソーリ教育では、子どもの発達段階を4つに分け、その段階に応じた教育を行います。
発達段階・年齢 | 子どもの発達 | 教育内容 |
---|---|---|
第1期 変容期 0~6歳 |
身体的・精神的な成長が著しい時期 | ・言語 ・秩序 ・感覚 ・運動 ・数 ・文化 |
第2期 一定安定期 6~12歳 |
集団の中で成長する時期 | ・自立 ・道徳観 ・社会性 |
第3期 変容期 12~18歳 |
子どもから大人へと変化していく時期 | 社会的に大人になるための自己構築 |
第4期 安定期 18~24歳 |
大人として自立した時期 | 経済的な自立 |
幼児教育で特に大切なのは「第1段階(変容期)」。
0~6歳までの時期で、0~3歳までが前期、3~6歳が後期と2つに分けられます。
モンテッソーリ教育では、この時期の子どもには3つの特徴があると考えます。
- 吸収する心…周囲全ての事柄を吸収する力
- 敏感期…子どもが何事にも積極的に学ぼうとする時期(言語・秩序・感覚・運動・数・文化)
- 正常化…心身ともに健康である子ども本来の姿
モンテッソーリ教育の幼児教育は、上記のうち「吸収する心」「敏感期」にフォーカスするものです。
では、次に、その教育内容を具体的に解説しましょう。
モンテッソーリ教育の具体的な教育内容
「吸収する心」「敏感期」にフォーカスした教育の例を、具体的に0~3歳、3~6歳に分けてまとめてみました。
●0~3歳
教育 | 内容 |
---|---|
粗大運動の活動 | ・ハイハイ ・歩く ・階段の上り下り |
微細運動の活動 | ・つかむ ・つまむ ・握る ・叩く |
日常生活の練習 | ・衣服の着脱 ・机を拭く ・花瓶の水を替える |
言語教育 | ・話す ・聞く ・文字に関心を持つ |
感覚教育 | ・視覚 ・聴覚 ・触覚 ・臭覚 ・味覚 |
音楽 | ・音楽を聴く ・音楽に合わせて体を動かす ・楽器を鳴らす |
美術 | ・クレヨンや鉛筆で絵を描く ・粘土で遊ぶ |
●3~6歳
教育 | 内容 |
---|---|
日常生活の練習 | ・はさみを使う ・コップに水を注ぐ ・ボタンをしめる ・室内を拭き掃除する ・洗濯をする |
感覚教育 | ・小さな物を見つける ・かすかな音を聞きつける ・匂いや味を区別する |
言語教育 | ・話す ・聞く ・書く ・文字や文章を読む ・文法や文章構成を知る |
算数教育 | ・数、大きさや量の違いを認知する ・数字に関心を持つ |
文化教育 | ・歴史 ・地理 ・生物 ・美術 ・音楽 ・宗教 |
モンテッソーリ教育の保育園・幼稚園では、このように子どもの発達段階に合った教育を実践しています。
その際に重要な役割をはたすものが、「教具(おもちゃ)」です。
教具とは、子どもが感覚・言語・文化教育などを習得する上で必要な教材です。
代表的な教具としては、ひも通しやパズル、カードなどが挙げられます。
これらを使って遊びながら学ぶことを、モンテッソーリ教育では「おしごと」と呼んでいます。
次の項目では、おしごとにはどんなものがあるかを解説していきます。
モンテッソーリ教育の「おしごと」と「教具(おもちゃ)」
先ほども書いた通り、モンテッソーリ教育における保育者の仕事は「子どもの力を引き出す環境を作ること」です。
この「環境」というのは具体的には何を指しているしょうか。
それは、子どもの発達段階に合った教具(おもちゃ)を用意することです。
教具を使った「おしごと」のねらいや、教具の種類をくわしく見ていきましょう。
モンテッソーリ教育の「おしごと」のねらい
「これは何だろう?」
「やってみたい!」
モンテッソーリ教育の保育園・幼稚園では、子どもたちが思わずそういった声をあげるような教具がそろっています。
「これを使って勉強しなさい!」
と強要するのではなく、あくまでも子どもが興味を持つような外観・仕組みの教具を置いておき、子どもたちが自発的に学んでいくことを促すのです。
おしごとのねらいには、日常生活の練習や感覚・言語・文化教育ということもありますが、何よりもそのような自主性を育むことが大きいと言えます。
モンテッソーリ教育の「教具(おもちゃ)」の種類
教具と一言で言っても、種類はさまざま。
子どもの発達段階や教育分野によって、用意する教具は異なります。教育内容と教具の種類をみていきましょう。
教育 | 教具 |
---|---|
粗大運動の活動 | ・モビール ・登り台 ・手押し車 |
微細運動の活動 | ・鈴入りのラトル ・ひも通し ・はめ込み立体 ・パズル ・リングさし |
日常生活の練習 | ・鍵箱 ・三つ編み板 ・折る練習用の布 ・縫いさしセット ・練習用の容器 |
言語教育 | ・文字板 ・ひらがな練習帳 ・絵カード ・メタルインセッツ |
感覚教育 | ・布のおもちゃ ・トレイ付き玉入れ ・マトリョーシカ ・円柱さし |
音楽 | ・レインスティック ・木琴 ・木製のラッパおもちゃ ・ハーモニカ |
美術 | ※教具以外 ・絵具でこすりつけ ・小麦粘土 ・指スタンプ |
算数教育 | ・暗算板 ・紡錘棒の棒収納箱 ・色棒ビーズセット ・数字あわせ |
文化教育 | ・地図パズル ・地球儀 ・国旗 |
パズルやひも通しなど、通常の保育園でも使われる教具から、鍵箱からメタルインセッツなど、モンテッソーリ教育ならではの珍しい教具がありますね。
使われる教具は施設によって異なりますが、自施設がモンテッソーリ教育を導入することになったり、モンテッソーリの保育園や幼稚園に転職・就職を考えている人は、以上のような代表的な教具の使い方やねらいをしっかりと把握しておきましょう。
モンテッソーリ教育の資格を取得できる場所
モンテッソーリ教育の保育園・幼稚園に就職するためには、モンテッソーリ教育の教員資格を取得しなければなりません。
日本でモンテッソーリ教育の教員資格が取れる団体には次のようなものがあります。
これらの団体の特徴や資格習得の方法をご紹介しておきますね。
国際モンテッソーリ協会(AMI)
「国際モンテッソーリ協会」は、1929年にモンテッソーリ教育の創設者マリア・モンテッソーリが設立した団体です。
こちらは国際資格となっているため、より専門性が求められます。
資格取得方法は、国際モンテッソーリ協会から指定された規定の課程を経て、卒業試験に合格するのが一般的です。
代表的な学校は東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンターです。
日本モンテッソーリ協会(JMI)
「日本モンテッソーリ協会」は国際モンテッソーリ協会の友好関係団体として1968年に設立されました。
日本モンテッソーリ協会公認モンテッソーリ教員養成コースが受講できる教育機関は次の通りです。
日本モンテッソーリ教育綜合研究所
「日本モンテッソーリ教育綜合研究所」は1968年に日本モンテッソーリ協会の「教師養成センター」として発足しました。
2011年には公益財団法人として認められ、2020年現在は「公益財団法人 才能開発教育研究財団 日本モンテッソーリ教育綜合研究所」という名称で開講しています。
ほかの教育機関と異なるのは「通信教育」が受講できることです。
働きながらモンテッソーリ教育の教員資格を取得したい人にはおすすめです。
モンテッソーリ教育は専門性をきわめたい保育士に向いている
集中力・創造力・自主性を伸ばす教育として、近年ますます注目を集めているモンテッソーリ教育。
今後の保育士としてのキャリアアップを目指したい人、保育士としての専門性をさらにきわめたい人の就職口としてお勧めです。
転職を考えている保育士さんは、モンテッソーリ教育を取り入れた保育園・幼稚園も、新しい職場として検討してみてはいかがでしょうか?
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