「カリキュラム・マネジメント」は、教育目標を達成するために欠かせない要素の一つです。保育の世界でも2017年の保育所保育指針、幼稚園教育要領、幼保連携型認定こども園教育・保育要領の同時改定でこの言葉が使われているので、耳にしたことがある保育士も多いと思いますが、詳しい内容まで把握していない方もいないと思います。
そこで今回は、保育におけるカリキュラム・マネジメントについて詳しく解説します。
カリキュラム・マネジメントとは?
「カリキュラム・マネジメント」は、保育業界に限らず、あらゆる学校教育において、学校の経営の中核に位置づけられるものです。
小学校なら小学校学習指導要領、幼稚園なら幼稚園教育要領・幼保連携型認定こども園教育・保育要領に記載されています。
小学校学習指導要領では、カリキュラム・マネジメントは次のように定義されています。
① 教育の目的や目標の実現に必要な教育の内容等を教科等横断的な視点で組み立てていくこと、
② 教育課程の実施状況を評価してその改善を図っていくこと、
③ 教育課程の実施に必要な人的又は物的な体制を確保するとともにその改善を図っていくこと
などを通して、教育課程に基づき組織的かつ計画的に各学校の教育活動の質の向上を図っていくこと(以下「カリキュラム・マネジメント」という。)に努めるものとする。
お役所言葉なのでちょっと頭に入りにくいかもしれません。
簡単に言うと、教育業界においては、「学校の目標の実現に向けて、カリキュラム(教育課程)を編成・実施・評価し、改善を図るというサイクルを推進していくこと」をカリキュラム・マネジメントと呼んでいます。
そのねらいは、児童や学校、地域の実態を適切に把握し、編成したカリキュラムに基づいて、組織的かつ計画的に各学校の教育活動(授業)の質の向上を図ることにあります。
保育におけるカリキュラム・マネジメントとは?
それでは、上記を保育業界に置き換えると、カリキュラム・マネジメントとはどのようなことを指すのでしょうか
保育業界でカリキュラム・マネジメントという言葉が登場したのは、2017年の保育所保育指針、幼稚園教育要領、幼保連携型認定こども園教育・保育要領の同時改定(通称:3法令改正)でした。
わかりにくいのは、保育所保育指針には記載されていないのに、幼稚園教育要領、幼保連携型認定こども園教育・保育要領には、それぞれカリキュラム・マネジメントについての記載があるからです。
それでは、具体的にどのように定義づけられいるのかチェックしていきましょう。
保育におけるカリキュラム・マネジメント①
「幼稚園教育要領」での解説
幼稚園教育要領では、カリキュラム・マネジメントは次のように定義されています。
前項で説明したように、小学校学習指導要領では「教育の目的や目標の実現に必要な教育の内容等を教科等横断的な視点で組み立てていくこと」が必要とされていましたが、幼稚園教育要領では「『幼児期の終わりまでに育ってほしい姿』を踏まえ教育課程を編成すること」が求められている、ということがポイントです。
保育におけるカリキュラム・マネジメント➁
「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」での解説
幼保連携型認定こども園教育・保育要領では、カリキュラム・マネジメントは次のように定義されています。
幼保連携型認定こども園は、保育園(保育)・幼稚園(教育)の両方の側面があります。
そのため、幼保連携型認定こども園教育・保育要領では、教育だけでなく保育の要素も盛り込まれているのが特徴になっています。
保育におけるカリキュラム・マネジメント3③
カリキュラム・マネジメントをまとめると
上記2つの解説を踏まえて、カリキュラム・マネジメントの要点は何かをまとめてみます。
カリキュラム・マネジメントの要点
- 全体的な計画に留意する
- 「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」を踏まえてカリキュラムを編成
- カリキュラムの実施に必要な人や物などの「体制」を確保する
- カリキュラムの実施状況を評価して、改善する
後ほど詳しく説明しますが、ここで言う「全体的な計画」とは、保育施設や教育施設に存在する「施設の中核となる保育の計画」のことです。
保育者・教育者はこれを参考にするとともに、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」を踏まえてカリキュラムを編成します。
そして、編成して終わりではなく、その後もカリキュラムの実施状況を評価して、改善することが求められています。
この「カリキュラムを編成」→「実施」→「評価」→「改善」のサイクルを続けていくことで保育・教育の質を高めていく、というのが保育におけるカリキュラム・マネジメントです。
保育園のカリキュラム・マネジメントのポイント
前項でひもといたように、カリキュラム・マネジメントでは「評価」「改善」などが求められます。実際にどのように評価したり改善していけばよいのでしょうか。そのポイントを解説します。
カリキュラム・マネジメントの評価・改善のポイント①
保育の自己評価
保育園や幼稚園教諭などの「保育者」は、子どもの姿をもとにカリキュラムを作ります(主に「指導計画」のこと)。
カリキュラム・マネジメントにおいて、保育者は1週間、1カ月、年間などの指導計画は立てるだけでなく、実際にその計画を振り返って記録します。
環境構成や適切な声かけ、ねらいを立てた保育を実践できたかなど、保育者は自分で評価しましょう。
そして、職員会議の中で、自分のクラスの振り返りを発表し、そこから周りの保育者からさまざまなアドバイスを受けることで、保育の質が上がります。
カリキュラム・マネジメントの評価・改善のポイント➁
園の評価
園には、「全体的な計画」というものがあります。
それは園長を中心として職員全員で作り上げた、その園の中核となる保育の計画です。
保育園ではその計画をもとに、各クラスでの年間計画、月の計画、週の計画などが作成されます。
しかし、全体的な計画はあくまで「全体」ですから、詳細までは書かれていませんので、
担任の保育者がそれを具体化する作業が必要になります。
その後、年度の終わりごろに全体的な計画も振り返りをすることで、園全体の保育の質を上げることができるのです。
カリキュラム・マネジメントの評価・改善のポイント③
マネジメント=PDCA
最後に、上記の①②で行った評価に対して、「今後どのようにしていくのか」を決めます。
P(保育の)計画を立てる
D(保育を)実行する
C(保育を)評価する
A(保育を)改善する
こうしたPDCAこそ、カリキュラム・マネジメントの大きなポイントです。
子どもの実態は日々変わっていきます。
そのため、常に目の前の子どもの姿と自分の保育を振り返りながら、計画をより実際の子どもの姿に即したものに改善していく必要があるのです。
さらに、近年では、保育園は新型コロナ感染症の影響を大きく受けました。どの園でも、頻繁に行っていた行事を減らしたり、柔軟な対応を行ったりしたことと思います。
実践・評価・改善を繰り返して保育の質を上げよう
「カリキュラムを編成」→「実施」→「評価」→「改善」のサイクルを続けていくことが、カリキュラム・マネジメントです。
保育を計画する、実施するだけは終わるのではなく、「環境構成は適切だったか」「あのときの声かけは子どもにとって最良だったか」など、自分自身の保育を振り返り、評価することが大切です。
また、自身を評価した後は、会議やミーティングで周りの保育者と共有し、アドバイスをもらうことで、客観的な視点から自分の保育を見つけ直すことできます。
今後も、こうしたトライアンドエラーを続けれ、保育の質を上げていきましょう。
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