株式会社とどう違うのか?社会福祉法人のメリットと設立方法

社会福祉法人移行化のメリットと設立ステップ~株式会社とどう違うのか?

近年、株式会社運営の保育園が増えている一方で、株式会社から社会福祉法人に切り替える保育園も増えています。経営者から見て、「社会福祉法人」の魅力とはどういうところにあるのでしょうか。
今回は保育園の経営者向けに、社会福祉法人のメリットや設立方法を解説します。

株式会社から社会福祉法人に移行する保育園が増えている?

従来、保育園を設置することができるのは、市町村と社会福祉法人に限られていました。
しかし近年は保育業界で多様化が進み、株式会社をはじめ、さまざまな運営形態が取り入れられるようになっています。
しかし、内閣府の「保育所等の運営実態に関する調査結果」では、下記のようになっています。
保育園の運営主体ご覧の通り、8割強が社会福祉法人です。
この結果は、市町村と社会福祉法人しか保育園を設置できなかった名残りとも考えられますが、株式会社から社会福祉法人に移行する保育園が増えていることも、要因になっていると考えられます。
では社会福祉法人とはどんなものなのか、どんなメリットがあるのでしょうか。詳しく解説していきます。

保育園の運営形態について

「社会福祉法人」と「株式会社」は保育園の主な運営形態です。
まずはそれぞれの運営形態の特徴や違いをチェックしていきましょう。

保育園の運営形態の違い
社会福祉法人

社会福祉法人運営の保育園とは、保育・介護・医療などの社会福祉事業を行うために設立された非営利団体「社会福祉法人」が運営している保育園ということです。
社会福祉法人を設立するには、所轄庁(原則として法人の事務所が所在する都道府県や政府が指定する都市など)による認可が必要で、設立までにやや時間がかかることもあります。
しかし、資金源は補助金や寄付金のため、比較的安定した運営を実現できます。

保育園の運営形態の違い
株式会社

株式会社が運営している保育園とは、営利を目的とした保育施設であり、利益を獲得するために、多くの手厚いサービスを提供しているところが多いです。
例えば開園時間が長かったり、ほかの保育園にはないユニークなプログラムを用意したりするなど、基本的に「利用者に質のいいサービスを提供している」という特徴があります。
資金源は株式や営業による利益で、基本的に補助金や税金に関する優遇は受けられません。
ただ、株式会社は最短2週間~1カ月で設立できるため、すぐに事業を開始することができます。

保育園の運営形態の違い
社会福祉法人と株式会社の違い

上記のように、社会福祉法人と株式会社の大きな違いは、「営利・非営利か」「補助金や税金に関する優遇の有無」「設立のしやすさ」ということにあります。

社会福祉法人 株式会社
営利・非営利か 非営利 営利
補助金や税金に
関する優遇
あり 基本的になし
設立のしやすさ 設立が複雑 設立しやすい

社会福祉法人運営の保育園の中にはキリスト教や仏教に根づいた保育を行うところが多く、株式会社運営の保育園の中には、ICTシステムを導入して事務作業の負担を軽減している施設が多い、といった特徴があります。

社会福祉法人の保育園の経営的なメリットとは?

経営的な観点で見ると、社会福祉法人の保育園には、んなメリットがあるのでしょうか?

社会福祉法人の保育園のメリット
補助金がもらえるため経営が安定する

社会福祉法人の一番のメリットは、補助金がもらえることです。
運営費を補助金でまかなえるほか、施設整備費となる補助金を受け取ることができます。
それではなく、法人税・道府県民税・市町村民税・事業税などは原則非課税になります。社会福祉法人は株式会社よりも課税が少ないのです。
補助金の受け取りや税制の優遇などにより経営は安定するでしょう。

社会福祉法人の保育園のメリット
地域に根差した保育を実践できる

社会福祉法人の管轄は、基本的に法人の事務所が所在する都道府県や政府の指定都市ですから、その保育園がある地域で事業を展開することがほとんどです。
そのため、社会福祉法人の多くは地域に根ざした保育を行っているところが多いです。
そういった保育園では、地域の人々との交流を図ったり、地域ならではのイベントを実施したり、アットホームで文化的な保育を実践しています。

社会福祉法人の保育園のメリット
社会的信用度が高い

社会的信用度が高いことも社会福祉法人のメリットです。
社会福祉法人は利益を求めない「非営利団体」であると同時に、国から認可された「公益法人」と位置づけられています。
また、運営状況を定期的に公開する義務があるので、「何をしているところなのか」ということがクリアな法人として、信用があります。
(もちろん、株式会社の信用度が低いというわけではありません。ただ、株式会社は営利を目的としており、運営状況を公開する義務がないため、社会福祉法人ほど社会的信用度は高くなりと言えます)

社会福祉法人の保育園の設立ステップ

社会福祉法人を設立する際は、所轄庁(原則として法人の事務所が所在する都道府県や政府が指定する都市など)による認可や設立登記の手続きなど、やらなければならないことがたくさんあります。
ここでは、社会福祉法人の保育園を設立する方法を順序に沿って紹介します。

社会福祉法人の保育園設立の流れ
役員を決める

保育事業の内容決定や、施設・設備の相談などの前準備が済んだら、まずは法人設立後の運営を円滑に行うための組織体制の基礎となる「設立準備委員会」を設立します。
設立準備委員会とは、社会福祉法人を設立するまでの期間、法人設立や施設整備などに必
要なことを審議・議決する組織です。
初回の設立準備委員会では、「準備委員会の組織、構成」「代表者の選出方法に関する規定」「資産及び会計」などをはじめとする“設立準備委員会規約”を定め、この規約に基づいて定期的に準備委員会を開催します。

社会福祉法人の保育園設立の流れ
設立要件を満たす

社会福祉法人を設立する際は、「役員」「資産・資金」「寄附金」などの要件を満たす必要があります。

役員の要件 6名以上の理事、2名以上の監事、7名以上の評議員を設置すること
資産の要件 土地・建物など、事業を行うために必要なすべての物件を所有していること
資金の要件
  • 運転資金…事業に応じて年間事業費の1/12以上の金額
  • 建設等自己資金…必要とする金額
  • 法人事務費…必要とする金額(最低100万円以上)
法人設立のための
寄附金の要件
  • 書面による贈与契約が締結されていること
  • 寄付者の所得・資産状況などから、確実に寄付されることが証明できること

そのほか、法人設立時の借入金や定款の作成に関する要件があります。
こうした準備が整ったら、次は管轄庁に提出する書類を作成します。

社会福祉法人の保育園設立の流れ
社会福祉法人設立の認可申請

続いて、社会福祉法人設立認可申請書類や、その添付資料を所轄庁に提出します。
社会福祉法人設立認可申請書類には、認可申請書・事業計画書・贈与契約書・土地賃貸借契約書をはじめ、たくさんの書類が含まれます。
ちなみに、管轄庁の中には、社会福祉法人設立認可申請書のほかに、事前に設立認可に係る協議を実施するとともに「社会福祉法人設立協議書」の提出を求めるところがあるようです。

社会福祉法人の保育園設立の流れ
社会福祉法人設立登記

管轄庁から社会福祉法人の設立が認可されたことを証明する書類が送付されたら、その書類が届いてから2週間以内に、管轄法務局に設立登記の申請を行います。
ここでようやく法人が設立したこととなります。

社会福祉法人の保育園設立の流れ
入札工事契約締結・工事実施

法人設立後、財産移転の手続きや役員改選手続きなどを行ったら、入札工事契約締結・工事実施へと移ります。
ここで保育園や園庭などができあがります。

社会福祉法人の保育園設立の流れ
事業開始

児童福祉施設設置認可申請書をはじめ、必要な手続きがすべて済んだら、いよいよ保育園の開園です。
開園式を行う法人も少なくないので、盛大に社会福祉法人の設立・保育園の開園をお祝いしてみてはいかがでしょうか?

社会福祉法人を設立し、安定した保育園運営を目指そう

すべての社会福祉法人が経営的に安定しているとは限りませんが、補助金を受け取れたり、税制が優遇されていたりと社会福祉法人が恵まれていることは確かです。
ただし、役員や資産・資金、寄附金などの要件を満たす必要があり、提出する書類も煩雑なので、誰でも簡単に社会福祉法人設立できるわけではありません。
ただ、社会福祉法人が運営する保育園は、地域に根ざし、社会的信用も高くなります。
社会福祉法人化を考えている株式会社の保育園運営者は、ぜひ今回の記事を参考にしてみてください。

こちらの記事もどうぞ