赤字、廃業、倒産……保育園経営の実態

赤字、廃業、倒産……保育園経営の実態

保育園が提供しているのは、「日中に子どもと一緒に過ごすことが難しい保護者のためのサービス」であり、ひとつのれっきとした立派なビジネスです。
今回は、ビジネスの目線で見た保育園の収益、業界全体の運営状況の実態について概観していきましょう。

そもそも保育園経営は儲かるのか?

そもそも、保育園というビジネスは「儲かる」ものなのでしょうか?

保育園の収益は?
収益は一般中小企業並み

まず、一般の企業と収益額で比較してみましょう。
2019年に発表された内閣府の「保育所等の運営実態に関する調査結果」によると、保育園の平均収益は1億3381万5000円でした。
もちろん、保育園の形態や規模によって差があり、基本的には、保育園や認定こども園の方が、小規模保育園よりも収益が高いようです。

収益 費用 利益
保育所 1億3381万5000円 1億2724万7000円 656万8000円
認定こども園 1億6158万1000円 1億4749万1000円 1409万円
小規模保育事業所 4581万3000円 4087万3000円 494万円

「中小企業実態基本調査」によれば、中小企業全体では、1社当たりの売上高は1億7148万円となっていますので、上記のような保育園の平均収益(保育事業収益+児童福祉事業収益)が1億円越えということなら、そこまで大きな差はないということになります。

保育園の収益は?
補助金や保育料で経営は安定している

保育園の収入源は主に「保育料」です。
仕事などで日中子どもと一緒にいることが難しい保護者は、実家や親戚のような預け先がなければ、保育園に子どもを預けることになります。
現代社会においては、そうした利用者が急に減ることはない、つまり需要が安定しているため、保育園が得る保育料も毎月安定しています。
むしろ近年は待機児童問題が深刻化しており、保育園に子どもを預けたい家庭は多く、今後もその流れは続いていくものと思われます。
そのため、保育業界は今後も「需要が高く、安定性がある業界」であり続けるでしょう。
また、認可保育園では、国から補助金をもらえたり、初期費用が一部免除されるといった特典があるため、支出を抑えながら利益を得ることができます。

保育園が廃業、倒産してしまう要因

しかしながら、実際には赤字が累積し、廃業や倒産などによって閉園してしまう保育園もあります。
そこにはさまざまな要因がありますが、大きく3つに分類できます。
閉園リスクから、安定した経営のために必要なことを学んでいきましょう。

保育園の廃業・倒産理由
人手不足

最も大きな閉園の要因は、今や社会問題になっている「保育士不足」です。
保育士は保育園を運営する上で必要不可欠な「働き手」です。
しかし近年、さまざまな理由で保育士が早期退職したり、保育士資格を持ちながら保育職に就かない人が増えていたりすることが増えています。
退職したり保育職に就かなかったりする理由は人によってさまざまですが、「労働環境がよくない」「賃金が低い」というイメージが影響していることは確かです。
保育業界全体が慢性的な人手不足であるため、保育士一人あたりの業務負担は重くなっており、規定ぎりぎりの人数で保育についたり、一人で膨大な事務作業・行事の準備などをこなさなければならなかったり、残業を余儀なくされたりしています。そうした過酷な労働環境に置かれている保育士は少なくありません。
また、処遇改善が実施されるようになったとはいえ、役職についていないために給料が伸び悩んでいる若手保育士も多いのが現状です。
これらの理由から、保育士の定着率が下がり、経営が難しくなってしまう例が増えています。

保育園の廃業・倒産理由
他の保育園との差別化できていない

保育園の経営は、「保育園の魅力度」によって左右されます。
これは企業やその商品・サービスの魅力がその企業の経営を左右するのと同じです。
同じ地域に複数の保育園がある場合、より魅力的な保育園に入園を希望する保護者が多いのは当然のことでしょう。
企業が競合との差別化戦略をとるように、保育園も他園とどれだけ差を付けられるかが集客のカギとなります。
たとえばイベントや行事のクオリティ、保育内容(アートに力を入れている、体操教室があるなど)、保護者支援の質など、その保育園ならではの魅力をうまくアピールできないと、子どもを預ける保護者を増やせず、経営難に追い込まれることになります。
大手保育園の場合はネームバリューが武器になりますので、中小の保育園は上記のような差別化が必須と言えます。

保育園の廃業・倒産理由
就学前まで通えない保育園の需要が低下している

近年、増えているのは、0~2歳までの子どもだけを預かる小規模保育園です。
しかし、保育園に子ども預けたい保護者の多くは、できれば途中で保育園を移ることなく、就学前まで預け続けたいと思っています。
もちろん0~2歳の子どもを預けたいという切迫した需要はあるのですが、そうした家庭でも、5歳まで預けられる保育園が見つかった段階で、小規模保育園から別の保育園に移ってしまうことが多いのです。
そのため、園児が定員に達してもすぐに空きが出て保育料が確保しづらくなり、経営的に追い込まれる小規模保育園が多いようです。

保育園を安定経営する方法

それでは保育園を安定して経営するためには、どのような施策が必要なのでしょうか?
生き残り戦略となる3つのアプローチを紹介します。

保育園の安定経営する方法
魅力的な保育園づくりを心がける

まずは、保育士・保護者の双方にとって魅力的な保育園を目指しましょう。

保育士向けのアプローチ

  • 給与の引き上げ
  • 休日数の確保
  • 社員特典(エプロン支給、資格取得支援、社員の子どもを優先的に入所させる)の付与
  • 家賃補助、住宅手当の支給

経営難を加速させる人手不足に陥ることを避けるため、給与の引き上げや家賃補助など、保育士にとって働きやすい環境や労働条件を検討することが優先です。
自園で働く人の子どもを、系列も低めて優先的に入所させるといった特典を設ければ、子どもがいる保育士や、産休・育休でブランクのある保育士の集客・定着にもつながります。

保護者向けのアプローチ

  • 行事・イベントに力を入れる
  • 保護者支援の充実
  • 日々の保育内容に個性を出す

保護者に対しては、「この園に子どもを預けたい」と思わせるアプローチが必要です。
毎シーズン楽しい行事やイベントを企画したり、美術や音楽などに力を入れたユニークな保育を実施したりして、その保育園の「個性」をアピールしましょう。

保育園の安定経営する方法
経営コンサルティングに依頼する

これから保育園を開業する方や、保育園の経営に悩んでいる方には、経営コンサルティング会社に依頼するという方法があります。
経営コンサルティングは大小さまざまな会社がありますが、中には保育業界に特化した会社もあります。そのような会社なら、経営のプロとして、保育園の経営戦略や事業計画書作成の支援、財務・会計支援のほか、保育士のマネジメント、教育・育成まで支援してくれるでしょう。

保育園の安定経営する方法
M&A

保育業界におけるM&Aとは、複数の保育園が合併したり、他の保育園を買収したり、事業会社などに自園を売却することです。
たとえば複数の保育園が統合することによって、それぞれの強みが組み合わさり、より魅力的な保育事業へと発展することができた例があります。
たとえば学習塾・体操教室・ピアノ教室などの「習いごと事業」を提供する保育園と、広い土地や大きな施設を所有する保育園が提携すれば、互いに「習いごとのスペースの確保」「教育者の確保」といったメリットが生じるわけです。

↓ こちらの記事で最新の動向や成功事例を紹介しています。

保育業界の最新M&A動向・成功事例

競争が激化する保育業界で生き残る戦略として、今後視野に入れてみてもいいかもしれません。

課題をブラッシュアップして安定した保育園経営を!

本記事でとりあげた人手不足、他園との差別化以外にも、保育園の経営にはさまざまな課題があります。
安定した保育園経営を持続するためには、保育業務一つひとつをブラッシュアップして、適切にアプローチしていく必要があります。
保育士が働きやすい職場をつくったり、ユニークな保育を実施したり、保育園の個性を出していくことを考えましょう。


こちらの記事もどうぞ