子育てを取り巻く社会環境は、時代によってどんどん変化します。それにともなって、保護者の考え方や、保育に求められるものも大きく変わり、子どもの成長・発達を支える保育士も、保護者と関わる上で必要な対策が変わってきています。
今回は、現代における子育ての動向から、保育園における保護者支援、保護者と向き合う方法について考えていきたいと思います。
子育て力が低い保護者も増えている
厚生労働省の調査によると、全国212か所の児童相談所が児童虐待相談として対応した件数は、平成30年度に159,850件と最多を記録しました。
主に増えているのは、心理的虐待に係る相談対応件数と警察等からの通告です。
保育園に通う子どもの保護者の中にも、「子育て力」が低く、子育てに対する不安を持つ様子が見られる人は少なくありません。
周りに相談する人がほとんどいないこと、これまでの人生で子どもと触れ合うことが少なく、子育てに対するイメージを持てないまま親になっているということもあるでしょう。
子どもに対して過度に干渉したり、逆に、どのように関わっていいかわからなかったり、発達段階として必要な反抗や甘えに対して、精神的に落ち込んでしまったりする保護者も増えています。
子どもにとって必要なことは何か
保護者にどう接するかということを考えるときに、まず第一に念頭においておくべきなのは、「子どもにとって必要なことは何か」ということです。
保護者対策を急ぐあまりに、大人の都合でものごとを判断してしまうと、「保育士」としての役割を果たせないことになります。
たとえば、体調不良の子どもの保護者に、早めのお迎えをお願いすることを考えてみましょう。
働いている保護者の事情を思えば、「ゆっくりでいいですよ」と言いたくなると思いますが、病院の受診が必要な状態なら、「なるべく早めのお迎えをお願いします」と伝えるべきですよね。あくまでも、その子にとっての最善の利益を考慮することが、保育士の役割なのです。
保護者を支援するということ
保護者支援は、保育士の仕事の中でも重要な項目の一つです。
保護者を支援する目的は、「子どもの健やかな育ちを保証すること」です。
対策と支援の違い
まずは「支援」と「対策」という言葉の違いを考えてみましょう。
「対策」とは、何かが起きる前に「相手の状況や事件の様子に応じて施す手段や方法」です。クレームを受けないように前もって策を練ったり、起きた場合に備えることです。
これに対して「支援」とは、力を添えて助けることを言います。
保育の仕事においては、クレームにならないための事前の「対策」と、保護者の困りごとや疑問に対する「支援」の両方の視点から関わることが必要です。
時代によって保育士の考え方も変わる
ひと口に保育士と言っても、新卒1年目から定年間際のベテラン保育士までは、実に45歳の歳の差があります。ベテランの中には、「およげ!たいやきくん」が流行った年から保育士をしている人もいます。
保育士はかつて「保母」と呼ばれていました。そうしたベテラン保育士の中には、「子どもは家庭がみるもので、私たちはそのお手伝い」という考えが抜けておらず、保護者がリフレッシュするために保育園に預けることに抵抗感をもつ人もいます。
ですから、園内での保護者に対する考え方を統一することは簡単なことではないでしょう。
だからこそ、「子どもにとって」ということを真ん中に置いた上で、保育園の役割としての保護者対策・支援を考えていくことが必要になるのです。
保護者の「背景」を予想する
園に対するクレームを防ぐためには、保護者の置かれている状況を想像したり、心情を予想することが欠かせません。
たとえば保護者に対する要望が強すぎたり、お知らせが急だったりすると、仕事をしている人にとっては「面倒なこと」になってしまいがちですよね。保育園や保育士にも予定があるように、保護者にもそれぞれ職場や家庭での予定があります。そこへ保育園のことも加われば、さらに忙しく、パニックになってしまうこともあるかもしれません。
100世帯の家庭があったら、100通りの事情があり、時間の流れがあるということを頭に入れて、行事や準備物のお願いをすることを心がけましょう。
進んで知ってもらうようにする
朝泣きながら登園をしたから、そのまま泣いて過ごしたのではないか。
お昼ご飯は食べただろうか。
お友達に仲間外れにされていないか。
保護者は、保育士が思っている以上に保育園での子どもの生活を知る機会がありませんから、いろいろなことを頭に浮かべます。感染症が流行れば、我が子の体調が悪くなると、「保育園ではちゃんと対策しているのかな?」と疑問を持つこともあるでしょう。
子どもの園での様子や、園で実施している保健衛生・安全対策、職員研修の様子などは、日頃からこまめに周知し、いざという時の助けにしましょう。
保護者からの理解を得るために、送迎に訪れた保護者に見えやすい場所に、その日の子どもたちの姿の写真や、保健衛生・安全対策のマニュアル、研修報告を掲示している園もあります。
気持ちに寄り添い、きちんと分析をする
それでも、クレームに発展することは避けられないでしょう。
クレームになっているケースのほとんどは、園からの説明不足や誤解がもとになっています。保護者の価値観や子どもの特性を理由に、その場しのぎで終わらせてしまうと、決して改善につながることはないでしょう。
どんな内容のクレームであっても、相手を不快な思いにさせてしまったことは事実です。まずは気持ちに寄り添って話ができる状況を作った上で、原因をしっかりと分析して、足りなかったことを改善していきましょう。
たとえば「新人の先生が挨拶をしない」というクレームが入ったとしましょう。
この場合、直接的には、「忙しい時間帯だった」「挨拶したけれど無視された」「気付かなかった」といった理由があると思います。でも、それをそのまま保護者に伝えても、「挨拶しなかった」と感じられた事実は変わりません。
こうしたときは、言いにくいことを伝えてくれたことに対して感謝し、そのときの状況についての詳しく聞き、推測できる範囲で説明し、今後の対策を講じる、という流れが理想的です。
決して謝るだけ、言い訳するだけ、否定するだけ、宥めるだけ、という場当たり的な対応にならないようにしましょう。
必ずチームで対応する
保育は、組織で行う営みです。誰かひとりの価値観や思い込みでものごとを進めてしまうと、園としての信頼を失うことになりかねません。
園の方針や理念に基づき、リーダーに指示を仰ぎながら、自分の立場で役割を果たすことで、初めて保育園として機能するのです。
園の組織図に則って落ち着いた行動をとることで、園としての価値観を示すことになり、それが保護者からのクレームを事前に防ぐことにもつながっていきます。
価値観が多様な時代の保護者対策、保護者支援
価値観が多様化し、生活スタイルも大きく変わりました。
同じ年齢の子どもがいる家庭でくらべても、「当たり前」は大きく異なります。
その「違い」を受け止めつつ、「保育園」として機能していくことが必要です。
保育園側がしっかりとした考えを持ち、保護者からのクレームや不安を最小限に抑えていくことで、子どもの健全な発達を保証することにつながります。
日頃から、保護者とのコミュニケーションを大切にしながら、保護者への対策を続けていきましょう。
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