保育士が辞めてしまう理由とは~よくある事例と園ができる対策

保育士が辞めてしまう理由~よくある事例と園ができる対策

保育士は何年も働き続けてくれる人もいますが、数年で辞めてしまう人も少なくありません。そこで今回は保育士の主な退職理由を、よくある事例とあわせて紹介します。保育園側ができる対策も解説します。

保育士の離職率は高い?

保育士は、子どもの成長を間近で見守ることができる、やりがいのある職業です。
しかし保育園の園長や経営者には、「数年で辞める保育士が多い」と感じている人もいるのではないでしょうか?
実際、保育士の離職率はどのぐらいなのでしょうか。
常用労働者の離職率との比較を交えてチェックしていきましょう。

保育士の離職率は9.3%

厚生労働省が2018年に発表した「平成30年社会福祉施設等調査」によると、保育士(公立・私立全体)の離職率は8.9%でした。
公立の離職率は5.9%で、私立の離職率は10.7%ですから、私立の方が離職率が多いことが分かります。

これは、公立保育園の方が収入が安定しており、キャリアアップを目指しやすいことが理由として考えられます。

参考 厚生労働省 平成30年社会福祉施設等調査

常用労働者の離職率は14.6%

次に、ほかの業種の離職率と、保育士の離職率を比較してみましょう。
厚生労働省が2019年に発表した「平成30年雇用動向調査結果の概況」によると、常用労働者全体の離職率は14.6%でした。
上に書いたように保育士の離職率は8.9%ですから、全体のほうが5.7%上回っています。
もちろん、複数の業種を合わせている数字ですから、業種によって離職率には差があります。例えば宿泊業・飲食サービス業・娯楽業の離職率は26.9%で、全体の職種の中でも最も高くなっています。最も離職率が低いのは建設業で9.2%。これは保育士の離職率8.9%とさほど変わりありません。
つまり保育士の退職率がほかの職種よりも高いという結果にはなっていません。

参考:厚生労働省 平成30年雇用動向調査結果の概況

保育士の退職理由とは?よくある事例とともに紹介

上記のように、保育士の離職率は特に高いことはありませんが、実際問題として保育士が離職したために人手不足に悩んでいる保育園は少なくありません。
保育士が辞めてしまう理由とは、一体どんなものなのでしょうか?
厚生労働省が発表した「令和4年版厚生労働白書-社会保障を支える人材の確保-」で、保育士の退職理由として特に多かった5つの回答を、よくある事例とともに紹介していきます。

厚生労働省 令和4年版 厚生労働白書-社会保障を支える人材の確保-「保育士として就業した者が退職した理由(複数回答)」より

保育士が辞める理由
職場の人間関係

保育士の退職理由として一番多いのが「職場の人間関係」(33.5%)です。
多くの保育園では国が定めた配置基準に沿って、複数担任制を取り入れています。
複数の保育士が協力し合って日々の業務に取り組む中で、保育観や仕事の進め方の違いで、関係がギクシャクすることも少なくありません。
また、保育園は閉鎖的な空間で外部とのつながりがあまりないため、園内で派閥が生まれたり、仲間はずれが起きたりすることもあります。

【よくある事例】

  • 同じクラスを担任している保育士とのコミュニケーションに悩んでいる。子どもや保護者についての共有をしてくれないし、片付けが遅くてなかなか次の作業に移れない…。注意すると不機嫌になる。
  • 周りの職人の陰口・悪口がひどいけれど、狭い職場なのでそれを園長に相談したことがバレたら…と思うとなかなか相談できない

保育士が辞める理由
給料が安い

「職場の人間関係」の次に多い保育士の退職理由は「給料が安い」(29.2%)ということです。
厚生労働省が発表した「令和元年賃金構造基本統計調査」によると、保育士全体の年収換算363.5万円(*1)で、月収換算は30.3万円(*2)です。
全職種では年収換算500.7万円、月収換算は41.7万円なので、保育士の給与が全体職種よりも低いというのは確かです。
もちろん、最近は処遇改善で保育士の給与は改善されているものの、やはり労力に見合った給料がもらえていないと感じる保育士は多いようです。
また、私立保育園の中には、ほかの業種と比べて、昇給しても給与が上がりにくいというケースもあります。

【よくある事例】

  • 力仕事も事務仕事も多くて大変なのに、ほかの業種の人よりも給料が少なくて、モチベーションが上がらない。これなら異業種に転職した方がいのかなと悩んでいる。
  • 役職手当はつくけれど、それでも異業種で働く同年代と比べると低いように感じる。
*1 年収換算:令和元年賃金構造基本統計調査における「きまって支給する現金給与額」に12を乗じ、「年間賞与その他特別給与額」を足した額
*2 月収換算:「年収換算」を12で割った額

参考 厚生労働省 保育士の現状と主な取組

保育士が辞める理由
仕事量が多い

3番目に多い保育士の退職理由は「仕事量が多い」(27.7%)ということです。
保育士の仕事は、子どもの身の回りのお世話だけではありません。
月案・週案・日案、児童票、連絡帳の記入などの事務作業、保護者との面談・相談、行事・イベントの企画・運営など、掃除や片付けなどたくさんの業務があります。
休憩時間を削って事務作業に取り組む保育士もいるほどです。

【よくある事例】

  • 子どものお世話や書類・連絡帳の記入で忙しいのに、中堅なので新人教育も研修もしなければならない。
  • 保育に集中したいのに、人が足りないから掃除や備品整理に時間を取られてしまう。

保育士が辞める理由
労働時間が長い

4番目に多い保育士の退職理由は「労働時間が長い」(24.9%)ということです。
保育士の勤務時間は原則8時間で、早番・中番・遅番などのシフト制になっていることがほとんどですが、人手不足おために残業しなければならないケースも少なくありません。
特にイベントや行事が近い時期は、その準備などに時間を取られることがあります。

【よくある事例】

  • 保育で使うおもちゃや教材の準備が終わらず、自宅で夜まで作業をした。
  • 夏祭りやお遊戯会の時期は忙しく、早く出勤したり残業をしたりすることもある。

保育士が辞める理由
妊娠・出産

5番目に多かった保育士の退職理由は「妊娠・出産」(22.3%)です。
保育士の仕事には体力が必要なことも多いため、妊娠して体調が不安定になると、それを機に退職する保育士も多いと思います。
もちろん、産休・育休制度は保育園でも使えますが、制度を使いづらい雰囲気があったり、体調面に不安があったりして、やむなく退職を選ぶ保育士も多いようです。

【よくある事例】

  • お腹に子どもがいる中、わんぱくな子どもがいる保育園で働くのは難しい…。
  • 人手が足りない中、産休を取るとひんしゅくを買ってしまいそうで怖かった。復帰後に居場所がなくなりそうなので、結局退職してしまった。

保育園側ができる保育士の離職対策!

次に、保育園側ができる保育士の離職対策を5つ紹介します。
保育士が安心して働ける環境づくりのヒントとしてぜひチェックしてみてくださいね。

保育園ができる保育士の離職対策
保育士が相談できる環境を整える

保育士の最大の悩みとされる「職場の人間関係」へのアプローチとして、まず保育士が相談できる環境を整えることから始めてみましょう。
例えば、大手の保育園では保育士一人ひとりに、本社や他園で働く担当者を「専属の相談役」として配置してサポートする取り組みを行っています。
また、組織内で「相談窓口」を設けて、働いている職場では相談しにくい相談を受け付けるといった保育園もあります。

保育園ができる保育士の離職対策
固定費を下げる

「給料が安い」ことは、保育園側にとっても悩ましい問題です。
保育園は国が決める「公定価格」がベースの公費と、保護者が支払う保育料が主な収入源で、通常の保育で潤沢な利益を出すことが難しいのです。
そのため、保育園がすぐにできる対策は、「水道光熱費」といった固定費を下げることなど、限られています。

保育園経営で利益を出す方法については、次の記事でも詳しく紹介しているので、チェックしてみてください。

利益を出せる保育園経営とは

保育園ができる保育士の離職対策
ICTシステムを取り入れる

保育士の「仕事量が多い」という問題の対策方法としては、ICTシステムを取り入れるのがおすすめです。
ICTシステムを駆使すれば、PCやタブレット、スマートフォンなどで欠席連絡受付・おたより送信・連絡帳の記入・午睡チェックを完結でき、保育士の負担を大幅に減らせます。
テンプレートの文やデザインが用意されているので、文章やデザインが苦手な保育士でも効率的に書類を作成できるでしょう。

保育園ができる保育士の離職対策
パート・アルバイトの保育士の数を増やす

保育士の「労働時間が長い」という問題に対しては、パートやアルバイトの保育士を雇用するという対策が考えられます。
「午前・午後のこの時間だけ、人手がほしい」というときに、パートやアルバイトの保育士がいれば、保育士の残業を減らせますし、イベントや行事の準備の際にも心強いでしょう。
正社員を雇用するよりも人件費がかからないのもポイントです。

保育園ができる保育士の離職対策
育休・産休を取りやすい体制へ

「妊娠・出産」を機に保育士が退職してしまう事態を防ぐためには、柔軟に働ける環境づくりや、育休・産休を取りやすい体制づくりが必要です。
妊娠中の保育士には、事務仕事を振ってできるだけ体に負担をかけないようにしたり、時短勤務・体調に合わせた柔軟なシフト調整を心がけたりするなどの配慮を心がけましょう。
また、実際に育休・産休を取って復帰した保育士がいれば、周りの保育士も育休・産休を取りやすくなります。
育休・産休の取得率を上げて「実績」を積み、休みを取りやすい雰囲気をつくることも大切ですね。

保育士が働きやすい魅力的な保育園をつくろう!

人間関係や給与、労働時間や仕事量などの理由で退職する保育士は少なくありません。
保育士の不足は社会的な問題です。
退職率を下げるためには、保育士の悩みに対して保育園側が一つひとつアプローチしていくことが重要です。
今回紹介した対策方法をぜひ参考にして、保育士が働きやすい魅力的な保育園をつくってくださいね。

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