保育園の適正人件費率は何%?【保育園運営ノウハウ】

保育園の適正人件費率は何%?【保育園運営ノウハウ】

利益を出せる保育園経営とは」という記事でも書いたように、保育園の運営費の中で最も多くの割合を占めているのは「人件費」です。保育園で働いているのは保育士だけではなく、管理栄養士や調理員、看護師など、さまざまな職種の人の人件費がかかります。適正な人件費率はどのくらいなのでしょうか。今回は、この適正人件費率と、人件費を削減せずにできる節約術について解説します。

人件費率とは?

保育園の人件費について説明する前に、まずは企業の「人件費率」について一般的なことをおさらいしておきましょう。

人件費に含まれるもの

人件費率(売上高人件費率)とは、「売上に対する人件費の割合」です。
「人件費」には、以下のものが含まれています。

【人件費に含まれるもの】
現物給与総額:給与、賞与、一時金
現物給与以外:退職金費用、法定福利費、法定外福利費、人材採用費、教育研修費

従業員にとっての年収は現物給与総額のみですが、会社としては、現物給与以外の費用も人件費としてかかっているということになります。
このため、人件費は従業員の平均年収の1.2~1.3倍程度になることが多いです。

人件費率の計算方法

人件費の合計を売上で割り、100をかけると人件費率を算出できます。

【人件費率の計算方法】

人件費÷売上×100=人件費率(%)

人件費率が高い場合は、売上に対して人件費の割合が高いということになります。
したがって、人件費率が高いとしたら、その原因は「売上高が少ない」「人的コストが多すぎる」ということになります。
一方、人件費率が低かったら、それは売上に対して人件費が低いということです。
この場合は、売上高が大きいからというポジティブな要因のためかもしれませんが、もしかしたら、「従業員への還元が十分に行われていない」というネガティブな要因があるのかもしれません。

つまり、経営者としては、会社の売上高に見合ったバランスのいい人件費率を目指すことが重要です。

【業種別】人件費率の目安

人件費率は、どの業種であっても同じわけではありません。会社規模によっても変わります。

【人件費率の目安を業種で見ると】

  • サービス業…40~60%程度
  • 飲食業…30~50%程度
  • 宿泊…30%程度
  • 小売…10~30%程度
  • 製造業…10%~50%程度

このようにサービス業は人件費が高くなる傾向にあります。
従業員が利用者(顧客)に対してサービスを提供することがメインの業種ですから、その分、人件費がかかるわけです。
サービス業には、教育・福祉などの業種も含まれていますから、保育園もサービス業に分類されます。

保育園の適正人件費率

保育園もサービス業に含まれると書きましたが、「保育園」の人件費の目安はどれぐらいと考えるべきでしょうか。

保育園の適正人件費率は70%

保育園の適正人件費率は「70%程度」と考えられます。
前項で説明した各業種と比べても、かなり高めですね。

福祉と医療の総合情報サイト「WAM NET(ワムネット)」のデータによると、定員60人以上の保育所2605施設で、サービス活動費用の72.4%を人件費が占めています。
保育園では人件費がかなり大きな割合を占めているのです。

ちなみに、保育士の平均年収は約324万円です。
上記「WAM NET」のデータでは、従業員1人当たりの人件費は371万4,000円でしたが(2014年度)、前記したように、そこには給与以外の各種手当や社会保険料が含まれていますので、従業員の年収としては309万5,000円程度になります(現物給与以外を20%として計算)
このため、このデータでは保育園の人件費は、保育士の平均人件費を上回っていることになります。

保育園の人件費率は定員規模が大きくなるほど高い

人件費率は、保育園の定員規模によっても異なります。
WAM NETのデータによると、規模が大きい保育園ほど人件費率が高くなる傾向がある、ということが分かりました。

定員区分 人件費率
60人以下 71.70%
61人以上90人以下 71.80%
91人以上120人以下 72.90%
121人以上150人以下 74.00%
151人以上 74.30%
全体 72.90%

なぜ規模が大きい保育園ほど人件費率が高くなるかというと、規模が大きくなると、保育士だけではなく事務員・用務員などを配置することになるからです。
園児が多い大きな施設では、保育士だけで事務仕事や掃除・在庫整理などの業務が回らないため、必要経費として事務員・用務員の人件費がかかるわけです。

赤字の保育園が増えている背景にある「人件費問題」

近年、赤字の保育園が増えてきています。
WAM NETのデータを見ると、赤字施設の割合は2020年度に20.9%でしたが、2021年度には25.9%と、1年で5%も上昇していることが分かります。
そこには「人件費」の問題が隠れています。

赤字施設は黒字施設よりも人件費率が高い

赤字施設を見てみると、黒字施設より人件費率が8.9 ポイント高い傾向にあります。
その原因のひとつは、赤字施設のほうが常勤職員の勤続年数が長く、従事員 1 人あたりの人件費が高くなっていることと思われます。

黒字施設 赤字施設 差(黒字-赤字)
人件費率(%) 71 79.8 8.9
従事員 1 人あたりのサービス活動収益(円) 580万6000 532万1000 48万5000
従事員 1 人あたりの人件費(円) 412万1000 424万9000 -12万7000

また、黒字施設と赤字施設を比べると、利用率と利用児童単価の違いによって、従事員 1人あたりのサービス活動収益に差があります。
WAM NETのデータでは、赤字施設は、従事員 1人あたりのサービス活動収益が黒字施設よりも48万5000円少ないという結果です。

このように、赤字施設は経営に必要な収益が得られていないために人件費率が高くなっていると推測できます。

人件費が必要以上に増えてしまう背景

保育園の人件費率に大きく関わる人件費ですが、この人件費が必要以上に増えてしまう背景は、給与の上昇や、先述した赤字施設の「勤続年数が長く、従事員 1 人あたりの人件費が高くなっている」といった例だけではありません。
「職員配置人員の増加」も関係しています。

近年は、保育士不足の影響で、なかなか人選ができない中で正社員の採用をくりかえす保育園も少なくありません。
たとえ採用しても、人材育成の途中で保育士が退職するケースもみられます。
こうした理由から、「保育士1人あたり子ども○人」という保育士の配置基準を維持するのが難しい保育園が増えています。

配置基準については下の記事をご覧ください。

保育士の人員配置基準は複雑!手厚い人員配置を維持するには?

また、ある保育士が退職するのに備えて、昼間にパート保育士をたくさん配置するなどのアンバランスなシフトの組み方も、人件費が必要以上に増えてしまう要因になります。

保育園ができる「人件費問題」の対策

保育園を運営するためには一定数の保育士は必要なものであり、削れません。
このため、人件費率が高すぎても、簡単には改善できないと思ってしまいがちです。
保育士の給与を下げず、適切な人件費を維持したままでも行える節約方法はあるでしょうか。

保育園の人件費節約術
採用費を抑える

保育園側ができるのは、まず採用費の削減です。

採用費とは、保育園が保育士を雇用する際に発生する経費のことです。
例えば、人材紹介会社に支払う費用や、転職サイトへの求人広告の掲載費などが採用費に含まれます。
保育園によっては、内定者の引っ越し費用や、新しい保育士を紹介した社員へ支払うインセンティブといった費用が発生することもあります。
保育園を運営する上で、こうした採用費は必要不可欠ですが、無駄が多いとそれだけ経営に悪影響を及ぼす可能性も。
人材が足りている時期であれば、利用する人材紹介会社を見直したり、求人広告の掲載を一時中断したりするだけでも、費用は浮くでしょう。

人材派遣会社について知りたい人は、こちらもチェック!

人材派遣と有料職業紹介、保育士を雇うならどちら?

保育園の人件費節約術
働きたいと思える環境づくり

そもそも採用費が必要以上に発生してしまうのは、「保育士の退職が多い」からです。
退職する保育士を減らせば、それだけ採用費用を抑えられます。

退職する保育士を減らすために、保育園側ができることとは何でしょうか。
それは、働きたいと思える環境づくりです。
例えば、新人教育の徹底や、良好な人間関係のためのフォロー体制、有給が使いやすい雰囲気など、保育士が安心して働き続けられる環境をつくりましょう。

保育園の「人件費問題」の対策
残業を減らす

残業こそ、無駄な人件費の最たるものです。
保育士は保育の準備や事務作業など、やることが多く、残業を減らすのはなかなか難しいと思うかもしれません。
しかし、最近は「保育園のICT化」が進んでいます。
シフトや出退勤、日誌や子どもの出欠情報をすべてツールで作成・管理する保育園が増えています。
そうしたツールの利用料金は月額1,000~5,000円程度のものも多いので、保育士に残業代を支払うよりも経費の負担は少なくなるはずです。

余分な費用を抑えて適正人件費率を目指そう

保育園を健全に運営するためには、売上高に見合ったバランスのいい人件費率を目指す必要があります。
採用費用を抑えたり、残業を減らしたりするといった節約術を実践すれば、保育士の給与を下げずに、適切な人件費を維持できるでしょう。
余分な費用を抑えて適正人件費率を目指してください。

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