「保育士の人員配置基準は複雑!手厚い人員配置を維持するには?」でも解説しましたが、保育の質を上げていくには、人員を手厚く配置することが必須になります。ただ、保育園経営の視点で考えると、人員配置は、当然のことながらそれだけの「人件費」がかかってしまいますので、そう簡単に人員を増やすわけにもいきません。
そこで今回は、保育士の人件費や国が定めた「公定価格」なども見ながら、人件費をして手厚い人員配置を実現する方法について考えていきます。
保育園の人員配置
まず、「国が定めた配置基準」をおさらいしながら、保育士の理想的な配置を考えてみましょう。
国に定められた人員配置
国は、子どもの安全と保育の質を担保するために、「保育士1人に対し、何歳の子どもを何人まで保育できるか」という配置基準を次のように定めています。
- 0歳児……………子ども3人に対して保育士1人
- 1・2歳児……子ども6人に対して保育士1人
- 3歳児……………子ども20人に対して保育士1人
- 4歳以上児……子ども30人に対して保育士1人
配置基準は保育施設の形態によって異なる
ただし実際の配置基準は、「認可保育所」「幼保連携型認定こども園」「地域型保育事業」など、保育施設の形態によって異なります。
たとえば施設によっては「家庭的保育者」「家庭的補助者」を保育士の代替として配置している場合があります。
また、地域型保育事業の一つである「居宅訪問型保育事業」の場合は、基本的にワンツーマンで保育を実施しています。
各施設の配置基準についてはこんな記事でも解説しているので、参考にしてください。
自治体によって独自の配置基準がある
さらに、自治体の中には独自の配置基準を設けているところもあります。
- 1歳児4人に対し保育士1人
- 2歳児5人に対し保育士1人
- 3歳児15人に対し保育士1人
- 4歳以上児24人に対し保育士1人
京都市
- 1歳児5人に対し保育士1人
- 3歳児15人に対し保育士1人
- 4歳児20人に対して保育士1人
- 5歳児25人に対して保育士1人
豊島区
- 1歳児5人に対して保育士1人
- 定員20人以上60人以下および91人以上の保育施設は、保育士1人を増員
- 61人以上90人以下の施設は非常勤保育士を1人増員すること
保育園の立ち上げで人員配置を考える場合は、国の基準だけでなく、保育園を建てる地域の自治体による規定の有無も確認しておきましょう。
保育士の人件費はいくら?
次に、保育士の人件費について見ていきます。
保育園を経営する上でかかる経費には、広告費、施設の賃料、消耗品費、水道光熱費用、保険料などがありますが、中でも大きいのが「人件費」です。
保育園に限らず、人件費は経費の中でも大きな割合を占めます。
保育園の場合、施設全体の人件費や、保育士一人あたりの人件費はどうでしょうか。
保育士の人件費は「公定価格」の8割程度
実際には保育士の人件費は、「公定価格」の8割程度を占めている園が多いでしょう。
公定価格とは、施設の運営にかかる費用を計算した上で、国が定める基準で算定した額です。
保育園(私立の場合)はこの公定価格を基準とした委託費を自治体から受け取ることで運営されています。
注意すべきなのは、公定価格で算定された人件費は国が定めた職員の配置基準で決まっているため、実際に働いている保育士の人数が、公定価格で計算された保育士の人数と異なると、人件費や保育士の給料が変動する可能性があるということです。
実際の保育園の人件費を見てみよう
福祉と医療の総合情報サイト「WAM NET(ワムネット)」によれば、定員60人以上の保育所2605施設では、サービス活動費用のの72.4%を人件費が占めています。
やはり、保育園経営における人件費はかなり大きな割合を占めていますですね。
ちなみに、同じデータによると、従業員1人当たりの人件費は371万4,000円でした(2014年度)。
人件費には給与以外にも各種手当や社会保険料なども含まれるので、1人当たりの人件費は平均年収の1.2~1.3倍程度という計算になります。
すると、保育士の平均年収は約324万円(1.2倍すると388万8,000円)なので、上記の人件費は、保育士の平均人件費を上回っていることになります。
手厚い人員配置のための人件費を確保するコツ
保育の質を保つためには、国の配置基準+1~2人の保育士を確保するのが理想ですが、人件費の問題で難しいと悩んでしまうかもしれません。
利益があれば、人件費に使えるお金が増えるので、手厚い人員配置ができます。
保育園として利益を出しながら、理想的な配置にかかる人件費を確保するコツを2、3紹介します。
理想的な人員配置のために①
無駄な残業を減らす
保育士10人が残業すれば、10人分の残業代がかかります。
言うまでもなく、「残業代=人件費」です。
残業がなくなれば人件費も抑えられますので、その浮いたコストで新しい保育士を採用することができるはずです。
しかし、保育士は保育の準備や事務作業などやることが多く、残業を減らすのはそんなに簡単なことではない、と思うかもしれません。
そんな方に知ってほしいのは、最近では「保育園のICT化」が進んでおり、シフトや出退勤、日誌や子どもの出欠情報をすべてツールで作成・管理する保育園も増えているということです。
ITツールは月額1000~5000円程度のものが多く、保育士に残業代を支払うよりも経費の負担は少なくなるでしょう。
理想的な人員配置のために➁
付帯サービス収入を増やす
会社が運営している保育園なら、付帯サービスを充実させることで利益を上げられるかもしれません。
多くの保育園の場合、収入源となる「保育料」は各家庭の収入事情で異なるので、むやみに上げるわけにはいきません。
しかし保育園を運営している会社が、英語教室や体操教室、音楽教室といった付帯事業を展開すれば、保育料以外の利益を得られるチャンスが生まれます。
そうした付帯サービスの利益を人件費に回せば、手厚い人員配置が実現できます。
理想的な人員配置のために③
なるべく役職の格差を減らす
公定価格では、園長・主任・保育士の基準額が換算されていますが、実際の保育園では、それとはかけ離れた「報酬の分配」が行われていることが多いようです。
内閣府のデータによると、公定価格の基準額との差額は次の通りです。
職種 | 施設長(所長) | 主任保育士 | 保育士 |
---|---|---|---|
公定価格の基準額(一人当たりの年間の人件費) | 約490万円 | 約460万円 | 約389万円 |
1人あたり年収(私立) | 約679万円 | 約507万円 | 約362万円 |
公定価格との差額 | +約189万円 | +約475万円 | -約268万円 |
これを見ると、役職者の年収は公定価格より高く、保育士の年収は基準より低いことが多いようです。
もちろん、人件費は「年収×1.2~1.3」なので、基準額と年収に若干の差が出るのは仕方ありませんが、役職の有無によって給料に大きな差が出ると、保育士のモチベーション低下につながる可能性があります。
人件費に割り当てるお金も少なくなりますし、役職のない保育士の給料が低いままだと、求人をかけても人が集まりません。
なるべく役職の格差を減らして、保育士のモチベーションアップを心がけましょう。
手厚い人員配置を心がけて安定した保育園経営を!
手厚い人員配置は、保育の質の向上につながります。
保育の質が上がれば子どもや保護者も安心して通えるようになり、入園希望者が増えれば経営が安定するという好ましい循環を作り出すこともできるでしょう。
今回紹介した人件費を確保するコツを参考に、これからも利益の活用方法とバランスのとれたお金の使い方を考えていきましょう。
横浜市「令和2年 11 月版 こども青少年局保育・教育運営課」
京都市情報館「京都市は手厚い保育士配置でゆとりを持った丁寧な保育を可能に」
豊島区「地域型保育事業 指導検査基準 (令和2年度用)」
厚生労働省「保育士の平均賃金」
内閣府「公定価格の仕組みについて」
内閣府「令和元年度幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査集計結果<速報値>【修正版】」
WAMNET「保育所の経営分析参考指標(平成26年度決算分)」
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