保育士資格をもつ人の仕事としては、障害児通所支援事業のひとつ「児童発達支援」があります。これは障害のある子どもの療育を行う仕事です。そこで今回は、児童発達支援施設のサービス内容、必要な資格について紹介していきます。
児童発達支援とは?
児童発達支援は、障害のある子どもに対して、日常生活の基本的な動作を援助したり、集団生活に適応したりするためのプログラムを提供するサービスです。
過去においては、障害の種別によって施設が分けられていることが多かったのですが、2012年に児童福祉法が改正されて一元化し、児童発達支援の取り組みがスタートしました。
児童発達支援の施設は大きく分けて「児童発達支援センター」と「児童発達支援事業所」の2つに分けられます。まずはそれぞれの役割をチェックしていきましょう。
児童発達支援センター
児童発達支援センターは、「地域の障害児の健全な発達において中核的な役割を担う機関」として位置づけられた通所施設です。
高度の専門知識・技術をもって発達支援にあたるだけでなく、障害のある子どもの家族や、ほかの障害児支援事業者・関係者からの相談に応じたり、専門的な助言なども行います。
従来の児童発達支援センターは、「福祉型」と「医療型」の2つに分けられていましたが、2024年4月に一元化されています。また、地域や障害の種類によって、施設の数や受けられる支援が限られていましたが、一元化されたことによって、障害の種類にかかわらず、身近な地域で必要な発達支援を受けられるようになりました。
参考
厚生労働省「児童発達支援ガイドライン」
こども家庭庁「児童発達支援ガイドライン(素案)」
こども家庭庁「障害児支援施策について」
児童発達支援事業所
児童発達支援事業所も、上記の児童発達支援センターと同じように、障害児やその家族に対して支援を行う施設です。
ただし、児童発達支援センターが地域の中核を担っているのに対し、児童発達支援事業所は、より身近な“通いやすい”施設を目指しているという違いがあります。
たとえば、児童発達支援事業所の施設数は児童発達支援センターよりずっと多くなっています。具体的には、2021年時点で両者の施設数は全国で8,265あり、利用している児童数は136,586人と報告されていますが、そのうち児童発達支援センターは9%程度に過ぎません。児童発達支援センターが1箇所以上設置されている市町村は、全体の35%とまだまだ少ないのです。
二つの施設の連携
実際には、上記の児童発達支援センター、児童発達支援事業所の双方が連携して、障害児やその家族を地域で支えています。
障害の特性や、それぞれの障害に応じた支援方法、支援での成功事例・困難事例を双方の施設で共有し合う取り組みが進められています。
特に児童発達支援センターの役割は、地域ネットワークの核として自治体や地域の事業所と積極的に連携を図るということであるため、定期的にコンサルや研修・事例検討会を開催しており、地域の発達支援レベルの向上に努めています。
児童発達支援施設で働くために必要な資格
これら児童発達支援施設で働くために必須となる資格は特にありませんが、施設ごとに資格保有者の人員配置基準が設けられています。
児童発達支援センター | 児童発達支援事業所 |
---|---|
【原則、配置が必須となる有資格者】
【機能訓練を行う場合】
【重症心身障害のある子どもを支援する場合】
|
【原則、配置が必須となる有資格者】
【機能訓練を行う場合】
【重症心身障害のある子どもを支援する場合】
|
つねに見守りが必要となる子どもや医療的なケアが必要な子ども、重症心身障害のある子どもを支援するには、最低限、この基準を上回る指導員または保育士、看護師が配置される必要があるでしょう。
参考 こども家庭庁「児童発達支援ガイドライン(本文・セット版)」
児童発達支援の対象・費用
次に、児童発達支援の対象・費用、利用に必要なものを紹介していきます。
対象・年齢
児童発達支援の対象になっているのは、集団・個別療育を行う必要があると認められた未就学(0~6歳)の障害児です。
主に発達障害、知的障害、難聴、肢体不自由、重症心身障害などの障害のある子どもが含まれます。
利用の流れ・必要な書類
保護者は、まず地域のこども家庭支援課や障害児相談支援事業所に相談し、施設の見学や申請書の提出、面接を経て利用を開始します。
この際に必要な書類は、地域にもよりますが、基本的には「申請書」と「障害児支援利用計画案」などです。
- 支給申請書
- マイナンバーカード(児童と保護者)
- 印鑑
- 障害児支援利用計画案
- 療育の必要性が確認できる書類など
必要な申請書類を提出して面接調査を通過すると受給者証が交付され、利用開始できます。
このとき、上記の医学的診断名・障害者手帳の提出は必須要件ではありません。
発達支援の必要については、市町村保健センター、児童相談所、保健所などの意見を参考することも認められています。
費用
児童発達支援は、児童福祉法に基づく給付制度「障害児通所給付費」の対象です。
受給者証を取得すると、国と自治体から利用料の9割が給付されるため、1割の自己負担でサービスを利用できます。
つまり、基本的に利用者が支払うのは、利用した日数に応じた費用の1割です。
具体的な利用料は利用日数や所得によって異なりますが、1回あたりの負担費用は1000~2500円程度です。
参考 こども家庭庁「障害児通所給付費に係る通所給付決定事務等について」
児童発達支援のサービス内容
児童発達支援では、支援が必要な子どものニーズに応じて、「発達支援」「家族支援」「地域支援」を行います。
それぞれ、具体的にどんな支援を行うのかを解説していきましょう。
発達支援
障害のある子どもが将来、スムーズに日常生活や社会生活を送れるようにするための「本人支援」を行います。
具体的には、子どもの発達に応じて、以下の5つの領域から支援を行います。
- 心身の健康や生活に関する領域「健康・生活」
- 運動や感覚に関する領域「運動・感覚」
- 認知と行動に関する領域「認知・行動」
- 言語・コミュニケーションの獲得に関する領域「言語・コミュニケーション」
- 人との関わりに関する領域「人間関係・社会性」
児童発達支援では、この5つの領域を網羅した総合的な支援だけでなく、子どもの発達段階や障害特性などを踏まえた「特定の領域に重点を置いた支援」も組み合わせて行います。
それぞれのニーズに応じた「オーダーメイドの支援」と考えるとわかりやすいかもしれません。
この特定の領域に重点を置いた支援で5つの領域からのアプローチを行った上で、理学療法士をはじめとする専門家の知見に基づく支援を、個別または少ない集団で行います。
家族支援
家族支援は、障害のある子どもを育てる家族が安心して子育てできるよう、子ども本人と家庭の状況を踏まえてサポートするものです。
障害のある子どもの育児は決して平坦な道のりではありません。子どもの成長・発達の過程で本人や家族がさまざまな葛藤に直面することになるでしょう。そのため、家族の思いを尊重し、気持ちに寄り添った支援が必要になります。
そこで、児童発達支援施設では、子どもの成長や発達の基盤となる親子関係や家庭生活を安定・充実させ、子どもの「育ち」「暮らし」の安定・充実につなげる役割を担っています。
移行支援
移行支援は、障害のある子どものライフステージの切替えを見すえた準備を指します。
具体的な移行先がすでにある場合、児童発達支援施設はその移行に向けた支援を行います。
たとえば移行先の支援方針・内容を子どもの家族と共有したり、移行先に子どもや家族の支援方法を伝達したりします。
具体的な移行先がない場合は、地域の保育園や子育て支援サークル、児童館、地域住民との交流を促し、子どもが地域の子どもたちと繋がりながら日常生活を送れるように支援します。
地域支援
地域支援とは、保健・医療・福祉・教育・労働の関係機関や障害福祉サービス事業所と連携して、障害のある子どもと家族への支援を行うことです。
児童発達支援施設は、子どもがさまざまな場面で適切な支援を受けられるよう、普段から子育て支援を活性化するための地域ネットワークを構築しています。
たとえば子どもが通う保育園、今後通う予定の学校・放課後児童クラブ、児童相談所、こども家庭センター(虐待が疑われる場合)などと情報を連携したりすることが、この地域支援に含まれます。
保育士が転職する選択肢としての児童発達支援施設
児童発達支援施設は、保育園とは異なり、障害児の支援に特化した施設です。
ただ、人員配置には児童発達支援管理責任者や指導員だけでなく、保育士も含まれているため、保育士資格を持つ人が働くことができます。
障害がある子どもの療育・保育について関心のある人は、就職・転職の選択肢の1つとしてチェックしてみてはいかがでしょうか。
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