保育園で起こりうる子どもの事故やケガを防ぐには、「ヒヤリハット」の報告が大切です。報告書を作成することで原因を解明し、対策を立てて再発防止に役立てることができます。とはいえ、どのような書式、項目で報告すればいいのかわからないかもしれません。
今回はヒヤリハット報告書の書き方と、報告書以外の対策を紹介します。
ヒヤリハットとは?
ヒヤリハットとは、文字通り、「ヒヤリ」「ハッ」とする出来事のことです。
保育園だけでなく、医療や介護、建設現場などで使われる言葉です。
ヒヤリハット報告書の作り方を説明する前に、まずはヒヤリハットそのものを具体例にもとづいて理解していきましょう。
ヒヤリハットは「事故に至る可能性のあった出来事」
「ヒヤリ」「ハッ」としたということは、なんらかの事故に至る可能性があったということです。
たとえば
「保育室のドアに子どもの指が挟まれそうになった」
という場合ですね。
保育士なら一度はこうしたことを体験し、大事にいたらなかったことで、「ああ、よかった」と胸をなで下ろしたことがあるのではないでしょうか。
こうしたことは、日常の些細な出来事と思ってしまいがちですが、「よかった」と反省もせずに見過ごしてしまうと、いつか大きな事故やケガにつながる可能性があります。
損害保険会社で技術・調査部の副部長を務めていたハインリッヒという人物は、1件の重大事故の裏には29件の軽い事故、つまりヒヤリハットが300件存在するという「ハインリッヒの法則」 を唱えています。
大事には至らないたくさんの未遂事故の中に、本当に重大な事故に発展してしまうものが隠れているのです。
そうしたものを発見するためには、ヒヤリハットがあった際に報告・共有し、対策を練ることが必要です。
ヒヤリハットの報告件数
たとえば、園児をバスに置き去りにするという事故がニュースで報道されました。
この事故は初めて起きたものではありません。
内閣府の「教育・保育施設等におけるヒヤリ・ハット事例集」でも、送迎バスで園児を下ろし忘れる・乗せ忘れる、乗せ間違えるといった事例が報告されています。
他にも、
- 子どもが車道に飛びだす
- 散歩中に子どもが列から離脱する
- 屋外保育中に子どもを見失う
といった屋外でのヒヤリハット事例はたくさんあります。
屋外に限らず、室内でも、
- 子どもを施設内のホールに置き去りにする
- トイレに子どもが閉じ込め状態になる
- 子どもが園内から抜け出す
というケースなどがあります。
こども家庭庁によると、令和4年1月1日~12月31日の期間に報告があった教育・保育施設の事故件数は 2,461 件で、前年より114件増えています。
こうした事故を防ぐために、保育園でどんな事故が起こりうるのかということを把握して、事前に備える必要があります。
具体的なヒヤリハットの事例は、こちらの記事で紹介しています。
参考
こども家庭庁「令和4年教育・保育施設等における事故報告集計」の公表について
内閣府 「教育・保育施設等におけるヒヤリ・ハット事例集」
ヒヤリハットを防止するには報告・共有が必要
ヒヤリハットとひと口に言っても、どれがそれに当たるかということは保育士によって認識が異なるかもしれません。
ヒヤリハットとして報告された事例の中には、危険な事故が含まれていることも、「大したことない」と思ったにもかかわらず、実はヒヤリハットだったというケースもあります。
つまり、ヒヤリハットの報告は、事故の防止だけでなく、保育士間の認識のすり合わせにもつながるのです。
ヒヤリハット報告書の書き方
ヒヤリハットを報告し、改善策を共有することは、子どもの命を守るだけでなく、保育士が安心して働ける環境づくりにも役立ちます。
それでは、ヒヤリハット報告書の書き方やポイントを確認していきましょう。
参考 内閣府「教育・保育施設における事故に至らなかった事例の収集・共有等に関する調査研究報告書」
発生時の状況・対応、改善点を書く
ヒヤリハット報告書は、現場にいなかった保育士でも当時の状況がわかるよう、より具体的に書く必要があります。
- 子どもの年齢
- 時間
- 場所
- そのときの状況
- 経緯(原因)
- どんな処置を施したのか
このように「いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように」(5W1H)を使って要点をまとめると、書き手はもちろん、読み手も状況を整理しやすくなります。
状況を整理すれば、そのヒヤリハットからさまざまな気付きが得られるでしょう。
たとえば、
「この時間帯は保育士の数がいつもより少なかった」
「この場所は死角が多い」
「報告書に書かれた原因のほかにも、○○が関係しているかもしれない」
というように、第三者から見て初めてわかることもあるでしょう。
主観や他責は入れない
ヒヤリハット報告書を書くときは、主観的な解釈や他責は入れず、事実だけを書きましょう。
ヒヤリハット報告書は事故を未然に防ぐための書類であって、「こんなことが起こったのは○○さんのせいだ」とう犯人探しのためのものではありません。
責任を追及することを避けて事実を歪めて書いてしまうと、原因が解明できず、結果として対策方法を見つけられないことになりかねません。
そのため、報告書には見たままの内容、聞いたままの内容だけを書くように心がけましょう。
もちろん、保育園全体でヒヤリハットを報告しやすい雰囲気を作ることも大切です。
誰かのせいにするのではなく、状況や経緯を踏まえて、客観的にヒヤリハットを分析し、次の保育に生かしましょう。
フォーマットを作るとわかりやすい
保育園であらかじめヒヤリハット報告書のフォーマットを作っておくと、効率的に作業を進められます。
整理されたフォーマットなら、現場の状況や経緯、改善策がより第三者に伝わります。
また、ヒヤリハット報告書をICT化するのも選択肢の一つです。
手書きよりも記入や閲覧が簡単ですし、職員間での共有漏れも防げます。
ICTシステムについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
報告書以外でできるヒヤリハット対策
報告書を共有する以外にも、ヒヤリハットに備えることはできます。
効果的な3つの方法を紹介します。
朝礼や会議でヒヤリハットを共有する
朝礼や職員会議、ミーティングなどヒヤリハットを共有する機会を設けましょう。
すでに報告書で共有していても、あらためて口頭で周知することで、保育士全員がよりヒヤリハットを意識するようになります。
また、ヒヤリハットの報告を経て、人員配置や子どもを見守る場所などを話し合うことで、再発防止につなげられます。
注意喚起として、保育士の目に付きやすい場所にヒヤリハット事例集を掲載するのも有効です。
保育士が子どもの事故・ケガの可能性を身近に感じられるよう、ヒヤリハットを共有する場を増やしていきましょう。
危険予知訓練を実施する
ヒヤリハット対策として、保育園で危険予知訓練を実施するのもおすすめです。
危険予知訓練は職場にひそむ危険な要因を発見し、解決する能力を高める訓練で、一般的に「KYT(K=危険、Y=予知、T=トレーニング)」と呼ばれています。
KYTには「KYT4ラウンド法」という基礎手法があり、イラストを使ってチームで話し合いをしながら進めていきます。
KYT4ラウンド法の進め方
1R:どんな危険がひそんでいるか | 日常のワンシーンをイラストシートに描き、その状況にひそむ危険を発見する。その要因が引き起こすと想定される事象をチーム内で出し合う。 |
---|---|
2R:これが危険のポイント | 発見した危険の中から、特に重要な危険に○印をつける。チームで話し合って危険をさらに絞り込み、◎印とアンダーラインをつけ、指差し唱和で確認する。 |
3R:あなたならどうする | ◎印をつけた危険のポイントを解決する方法を考え、具体的な案をチームで発表し合う。 |
4R:私達はこうする | 3Rで出た対策案を絞り込み、「重点実施項目」として※印をつける。その項目を実践するための「チーム行動目標」を設定し、指差し唱和で確認する。 |
その状況から危険を想定して、具体的な対策を考えることは、保育中のあらゆるシーンで役立ちます。
周りの意見を取り入れながら、危険に対する解決への実践力を高めていきましょう。
参考
厚生労働省「危険予知訓練(KYT)」
中央労働災害防止協会「危険予知訓練 KYT」
報告書の内容を分析して、保育環境を変える
ヒヤリハット報告書や危険予知訓練のように、一つの状況から危険因子を発見し、対策を考えることも大切ですが、複数の事例から傾向を分析することも重要です。
ヒヤリハットを危険レベル、発生の状況(場所・活動内容)ごとに分類すれば、「どんなときにどんな事故が起こりやすいか」ということをつかみやすくなります。
分析をもとに、遊具を取り替えたり部屋の配置を変えたりと、安全に配慮した環境づくりを行いましょう。
ヒヤリハットの報告・共有で再発を防止しよう!
ヒヤリハットはどの保育園でも起こりうるものです。
安全な環境のもとで質の高い保育を実践するためには、気付いたことをその都度報告・共有して、さまざまな危険に備えることが大切です。
今回紹介した報告書の書き方やヒヤリハット対策を参考に、事故の防止に努めていきましょう。
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