保育・教育の文献やガイドラインには、「同僚性」という言葉がよく出てきます。「同僚性」は、保育の質に欠かせない大切な要素ですが、一般的にはあまり聞き慣れない言葉なので、ぴんとこない保育士が多いのではないでしょうか。そこで今回は、同僚性を高める方法、そして「単純接触効果」が与える影響について紹介します。
保育・教育における「同僚性」とは?
近年の教育業界では、教員の退職が増加したり、少子化によって学校が縮小・統合されたり、教科担任制が導入されたりといったことから、かつてのような教員同士のつながりが薄れつつあります。
学校に「一つの自律した機関」として運営することが求められるため、個々の教員が働くことより、教員同士が協力して働くことが重視されているのです。
そこで注目を集めているのが、教育学者の佐藤学氏が提唱している「同僚性」 という言葉です。
昨今は教育関連の文献だけでなく、保育のガイドラインや保育メディア でもこの「同僚性」という言葉が使われるようになり、その重要性が説かれています。
参考
授業研究会の活性化と同僚性に関する研究(兵庫県立教育研修所)
先生同士の「同僚性」を高める(ベネッセ教育総合研究所)
お互いに高め合う協働的な関係
佐藤学氏は、同僚性をこう定義しています。
教育実践の創造と相互の研修を目的とし、相互の実践を批評し、高め合い、自律的な専門家としての成長を達成する目的で連帯する同士的関係
「教師文化の構造=教育実践研究の立場から」1993
これを保育に置き換えると、同僚性とは、「保育者同士がお互いに専門性を高め合う協働的な関係」ということになるでしょう。
近年、保育園は「一時保育」「休日保育」「運動・芸術・文化などの学習活動の取り組み」など、保護者からの多様なニーズに対応することが求められています。
そのようなニーズに保育士が個々に対応することは難しく、保育士同士がチームとなって取り組まなければなりません。
そこで、同僚性を高めることが重要になるのです。
それでは、保育者同士が協働するとどんな相乗効果が生まれるのかということを見ていきましょう。
同僚性は「保育の質」の向上につながる
同僚性は、「保育の質」の向上につながる大切な要素です。
保育園には小学校のような「授業」はありません。
主活動として運動や製作、音楽などの「遊び」を実践していますが、その進め方や子どもとの接し方は、保育士によってまちまちです。
もちろん保育所保育指針や保育園の方針などを参考にして、週案・日案を作成していますが、保育には「正解」がないとされ、保育士同士がお互いの保育を学ぶことで視野を広げ、保育の質を向上させているのです。
たとえば他の保育士の保育を見て、「この声かけはケンカの仲裁のときによさそう」「この製作は簡単に作れそうだから自分のクラスでもできるかも」というように、自身の保育に実践的に活かしたりすることはよくありますよね。
「こんな視点があったんだ」「この保育観は自分とは違うけど、何か感じるものがある」など、異なる視点や保育観に触れることで、子どもへの理解も深めることになります。
保育士同士が同僚性を高める方法
さて、「同僚性を高める」といっても、具体的に何をすればいいのでしょうか?
保育士同士で同僚性を高めるための効果的なアクションを5つ紹介しましょう。
共同作業・話し合いの場を頻繁に設ける
同僚性を高めるためには、まず保育士同士が関わる機会を増やすことが必要です。
「同じ職場なのだから、すでに関わる機会はあるはず」と思うかもしれませんが、保育士の一日は非常に多忙ですから、実際には担当のクラス以外の保育士と関わる機会は多いとは言えません。
保育中は子どもへの支援に集中し、休憩時間は子どもの午睡を見守りながら連絡帳や日誌を書き、手が空けばイベント・行事の準備をする――そんな過密なスケジュールが日常ですから、ちょっとした雑談すらままならないという保育士が多いのではないでしょうか。
そこで、保育士同士で共同作業を行うような機会を設けることで、保育士同士がコミュニケーションを取りながら仕事を分担できるようになります。
作業を行いながら、効率的に作業する方法をお互いに教え合うこともできるでしょう。
また、会議やミーティング、1on1などの話し合いの場を頻繁にもつことで、お互いの悩みや課題をシェアしたり、解決方法を模索したりできるようになるはずです。
若手が発言しやすい雰囲気を作る
話し合いの場では、若手が発言しやすい雰囲気を作りましょう。
新人保育士や入社したばかりの保育士は、先輩保育士に気を遣ってなかなか発言できなかったりしがちです。
先輩保育士のほうから若手に積極的に話しかけたり、「これどう思う?」「いいアイデアあったら教えてほしいな」と聞いたりすることで、自然と若手が意見を言いやすい空気を作れます。
話し合いの場などでは、とかく、若手の未熟なところを指摘することが多くなりがちですが、その際に伝え方を間違えてしまうと、やる気を削いでしまうことになりかねません。
客観的に、そして冷静に課題点を挙げて解決策を一緒に模索するといった、「前向き」な声かけを心がけましょう。
先輩保育士・園長もたまには悩みを相談して
同僚性を高める方法としては、若手を導くリーダーである先輩保育士や園長が、周りに悩みを打ち明けるのも効果的です。
保育士同士が安心して話し合い、協力的な関係を築くためには「自己開示」が必要です。
自己開示とは、自分の強みだけでなく、悩みや弱点なども含めて、ありのままの自分を他者へさらけ出すこと。
先輩保育士・園長が、失敗談や今悩んでいることを吐露することで、周りの保育士も自己開示しやすくなります。
会議・ミーティングを工夫する
職員会議やミーティングは、ただ開けばいいというものではありません。参加人数の調整やICTシステムの活用など、工夫すべき点はたくさんあります。
たとえば会議を少人数に分けて実施すれば、発言しやすい雰囲気が生まれ、各グループで意見をすり合わせるうちに違った発見があるでしょう。
また、ICTシステムを活用すれば、議題の共有や議事録の記録・要約がスムーズにできます。
ICTシステムについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
一人ひとりの保育者の長所を見つけて
保育者一人ひとりの強みを見つけて伸ばすことで、チームとしての力はアップします。
先輩保育士や園長は、積極的に若手保育士の長所を褒めてください。
褒められた保育士は、前向きな気持ちになりますし、「もっと挑戦しよう」「周りの保育士の役に立ちたい」という意欲を燃やすはずです。
その意欲を受け止め、さらにまた感謝の言葉をかける、というサイクルを繰り返すことによって、保育士同士の信頼関係をより強くしていけるでしょう。
そうした信頼感があれば、相手の課題を指摘しても関係がこじれることなく、解決へのステップへと進めるようになるはすです。
「単純接触効果」も同僚性の向上に効果的!
次に、同僚性を向上させるといわれる「単純接触効果」について説明しましょう。
単純接触効果とは、人やモノに何回も繰り返し接触すると、その対象に興味や親しみを抱くようになる心理現象です。
この効果は、よく恋愛テクニックとして紹介されますが、実はビジネスでも応用されています。
単純接触効果が保育園でどのような影響をもたらすのか、見ていきましょう。
担当クラス以外の保育士とも仲良く!
共同作業や会議、ミーティングで、同じクラスを担当する保育士以外との接触が増えると、自然と心の距離が縮まります。
単なる「顔見知り」だった関係が、一緒にいる時間が増えることで、気軽に雑談ができるような関係へと変化していくでしょう。
さらに、会議やミーティングで、それぞれの保育観や内面を見せ合い、それをお互いに吸収し合うことで、保育の質が向上していくはずです。
また、イベントや行事でもチーム連携しやすくなります。
保護者・子どもにも好印象を与える
接触回数を増やすと、保護者や子どもの警戒心を徐々に解くことにもつながります。
「この人いつも笑顔で挨拶してくれるな」「いつも自分を気にかけてくれるな」という印象を与えることで、入園したての子どもやその保護者が安心してくれるようになります。
その安心感こそが、信頼関係の土台となる大切な部分です。
実習生との連携も取りやすくなる
同僚だけでなく、実習生との関りでも同僚性は重要です。
実習生に積極的に声をかけたり、共同作業の場を設けたり、と接触回数を増やすことで、実習生の緊張を解き、「話しやすい空気」を作ることができます。
その結果、実習生と連携が取りやすくなり、保育実習がより実りあるものになるでしょう。
また、職員会議やクラス会議など、実習生が保育士同士の話し合いの場へ参加する機会を設ければ、保育への深い理解につながります。
同僚性を高めて保育の質をUPさせよう!
同僚性は、保育士の専門性を向上させる重要なカギです。
会議やミーティングなど、保育士同士が関わる機会を積極的に設け、お互いに「学び合う姿勢」を心がけることで視野を広げましょう。
先輩保育士や園長から後輩や新人に意見を仰いだり、たまには悩みを相談してみたりと、保育士同士が率直に意見を言い合えるような職場づくりを進めてほしいと思います。
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