子どもの不思議な「頭足人」の世界~お絵描きから見る子どもの成長~

子どもの不思議な「頭足人」の世界~お絵描きから見る子どもの成長~

前回はスクリブルについて解説しましたが、今回は、幼児の描く絵に出てくる、頭から直接足が生えているようなものについて解説します。これは幼児期に多く見られる「頭足人」という表現ですが、実は子どもの発達に欠かせないプロセスです。今回は、子どもの発達段階の観点から、「頭足人」と子どもの「絵」の成長を解説していきます。

子どもが描く「頭足人」とは?

子どもがよく描く、頭から直接足が生えている「頭⾜⼈」(とうそくじん)。
これは実は世界中の子どもの絵に⾒られる表現で、⼿よりも先に足が生えている様子がオタマジャクシの成⻑に似ているため、海外では「オタマジャクシ」(tadpole)と呼ばれています。足が1本しかない場合もあります。
子ども特有のこの不思議な表現は、どのような過程から生まれているのでしょうか。
じっくり掘り下げていきましょう。

頭から直接足が生えた「人」のようなもの

よく見る「頭足人」は、丸の中に目を描いた「頭」から直接、直線で「足」が描かれています。「頭」の側面から「手」が生えていることもあります。

「頭足人」の特徴は、「胴体が描かれていない」ということです。
子どもは、「頭」や、日常的によく使う「手」「足」はを認識していますが、それらをつなぐ「胴体」をあまり意識していないということが、この表現の理由の一つになっていると考えられます。
大人から見ると不思議な表現ですが、子どもの発達過程ではよく見られる表現なので、無理に正す必要はありません。

「頭足人」は3歳ごろに見られる描き方

「頭足人」を描くようになるのは3歳ごろです。
このあたりの時期は「構成期」と呼ばれており、「何を描いているのかはわかるけれど、大人の絵の描き方とは違う」という特徴があります。
その後、4~5歳になると、「胴体のある人」を描く時期へと移行していくのが一般的ですが、5歳以降も「頭足人」を描くケースもあります。

3歳ごろの「絵」に関する発達段階

子どもの「絵」の表現は、発達段階によって変化していきます。
「頭足人」を描き始める3歳ごろの「絵」の特徴から、子どもの発達過程をチェックしていきましょう。

最初は「丸と直線の組み合わせ」

2~3歳の時期になると、子どもは線を描いて遊ぶようになります。
やがて「円」を描けるようになり、「円」と「線」を組み合わせて「人」を表現するようになります。
「頭足人」は、この「円と線の組み合わせ」のひとつです。

2~3歳は言語の発達が著しく、「ブーブー」「ママ」「パパ」といった言葉を覚えながら、同時に概念も作り出していく時期です。
実在するものを描き、それを保護者や保育士にわかってもらう経験を通じて、表現する喜びを味わっていきます。

「描きたいことを描きたい」気持ちが生まれる

3歳以降に「円と線」を獲得すると、次に、「描きたいことを描きたい」という気持ちが生まれます。
上述のようにこの時期は「構成期」にあたりますが、単なる遊びの絵だけでなく、実際に見たものをもとにした絵、体験したことの絵、実在する人物の絵、空想の絵なども描くようになります。

「あるものをあるように再現したい」時期へ移行

「構成期」に続いて「児童期」に入ると、「あるものをあるように再現したい」という気持ちが生まれます。
この時期は「再現期」と呼ばれ、大人の描き方へ移行する重要なプロセスです。
自意識が芽生え始める時期でもあるため、描きたいものと実際の技能の差に悩んだり、他人からの評価に敏感になったりすることも。
絵に対するモチベーションが下がりやすいため、教育者には褒める、認めるといった援助が求められます。

「構成期」に見られる絵の特徴

「頭足人」などの「構成期」の絵には、ほかにもさまざまな特徴があります。
子どもならではの興味深い表現をまとめてみました。

集中構図

「集中構図」とは、いわゆる誇張・強調表現のことです。
子どもは認識したものの相対的な関係を把握する力がまだないので、自分の興味を持ったものや印象深いものを「大きく」描く傾向があります。
そのため、一部分が強調される形になったり、部分的に簡略化される形になったりします。
例えばボール投げの絵で、自分よりもボールを大きく描くといったケースもこの「集中構図」と言えます。

抹消表現

「抹消表現」は、描きたくないものを小さく描いたり、描かなかったりする表現のことです。
ものに対する印象といった感情が関係していると考えられます。

レントゲン表現

「レントゲン表現」は、内部が透けているような、「見えないものを見えるように描く」という外部の視点からの表現です。
透視図法とも呼ばれ、子ども自身が捉えた姿・形が表現されています。
例えば、園バスの中が透けて、自分や友だち、保育士や運転手の様子が描かれている絵がレントゲン表現です。
実際には壁や布、建物などに隔てられているはずなのに、自分の知っている内部の様子を描きたいという気持ちが表れた表現と言えます。

同存表現

「同存表現」は、異なる時間に起こったできごとを、ひとつの絵の中に同時に描いていく表現です。
古来の「絵巻物」のような表現とも言えます。
例えば、遠足の行きと帰りの様子が一枚の画面に描かれる絵は、この同存表現と言えます。

カタログ表現

「カタログ表現」は、興味のあるものを並べて描く表現です。
一見するとバラバラで全体としてはまとりのない印象を受けますが、子どもの頭の中ではつながっています。

基底線

基底線は、空や地面、右左を区切る線のことです。これは5歳あたりから見られます。
地面を茶色の線、空を青い線で描くこともあれば、紙の底辺自体を基底線として捉えることもあります。
空を表す線に加え、雲や太陽、虹や雨などを描く子どももいます。
基底線を描くことで、絵の中に垂直・平面が生まれ、より大人にも伝わりやすい絵になります。
位置関係を気にせずに書いていた時期から比べると、大きく発達していることがわかりあます。

擬人化表現

「擬人化表現」は、人間以外の生きものや静物に「顔」を描く表現です。
犬や猫、車や太陽にも人間のような顔を描くのは、擬人化表現のあらわれです。
子どもの思考様式は、人間だけでなく万物に命が宿るという「アニミズム」に基づいているといわれます。擬人化表現はそれが色濃く反映された表現だと言えます。

展開図的表現

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「展開図的表現」は、箱の展開図のように「真上から見たように描く」表現です。
真上からだけでなく、横からも見るという多視点的な要素があるため、「観面混合」「多視点表現」とも呼ばれます。
花の形を一つの平面に並べる、園庭を上から見る構図でありながら園庭で遊ぶ子どもたちが正面を向く、といった描き方が、この「展開図的表現」です。

正面表現

「正面表現」は、体は横向きで顔は正面を向いている表現です。人物だけでなく、動物や虫、花の絵でもよく見られます。

積み上げ表現

「積み上げ表現」は、「近くのものは手前に、遠くのものは重ねずに積み上げて描く」という表現です。
この時期はまだ「遠近」を表現することが難しいので、子どもは対象のものを積み上げて表現します。
児童期になると空間を認識できるようになるので、重なりや奥行きなどの表現を身に付けていきます。

「頭足人」を描く子どもの援助

最後に、「頭足人」などを描く時期の子どもに保育士が援助する際のポイントを解説します。

子どもの表現したい気持ちを尊重する

「頭足人」を含めて、子どもの絵は非常にユニークな表現にあふれています。
子ども特有の表現ですが、保育士によっては、「正しい描き方を教えなくては」という気持ちになってしまうかもしれません。
しかし、「見たものをそのままの向きで、正しく描く」という気持ちは、成長につれてちゃんと自然と芽生えてきます。
まずは、子どもの「表現したい気持ち」を尊重し、適切な声かけ・援助を行いましょう。

子どもが伸び伸びと描ける環境を用意する

子どもが伸び伸びと絵を描くことができる環境を用意することも重要です。
2~3歳ごろは筆圧が弱く、持ち方も不安定なので持ちやすい長さのクレヨンや色ペンなどを準備しましょう。
線の形を認識しやすいように、濃い色を選ぶと良いでしょう。
また、はみ出してもいいように紙の下に新聞紙やチラシを敷いたり、少し広いお絵かきスペースを設けたりするのもおすすめです。

イメージが広がるような声かけ・援助をする

3歳以降になると、円や線を描くこと自体に楽しさを覚える時期から、好きなものや体験したことを描く時期に移行します。
保育士が子どもが絵で表現したことを受け止め、絵を褒めたり共感したりすると、子どもの絵に対するモチベーションは上がります。
「昨日の遠足の絵かな? 昨日はいろんな葉っぱと木の実を集めたよね」といったように、イメージが広がるような言葉をかけることも大切です。

子どもの「描きたい気持ち」を尊重して成長を見守ろう

「頭足人」は、世界中の子どもの絵に見られる表現です。
このような絵を描く時期を経て、やがて「あるものをあるように再現したい」という気持ちが生まれ、大人のような描き方へと移行していきます。
この時期は、まず子どもが絵の楽しさ、表現する楽しさを味わい、感性を高めるように援助することが重要です。
保育士は、子どもの「描きたい気持ち」を尊重して成長を見守りましょう。

子どもの不思議な「頭足人」の世界~お絵描きから見る子どもの成長~

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