[保育士の処遇改善加算]わかりやく解説します!

[保育士の処遇改善加算]わかりやく解説します!

保育士の処遇は、補助金制度によって何度も改善されてきました。
そうした制度はもともと2013年から始まりました。2017年に新たな処遇改善加算制度(処遇改善加算Ⅱ)が追加され、2022年にも追加措置が発表されています。
保育士にも経営者にも気になる制度ですが、「複雑でわかりにくい」「加算Ⅰと加算Ⅱってどう違うの?」など混乱している方も多いのではないでしょうか。
保育士の処遇改善加算の概要と、加算Ⅰと加算Ⅱの違いを簡単に解説していきましょう。

保育士の処遇改善加算とは?

保育士の処遇改善加算とは?
保育業界にいると、「保育士の処遇改善加算」という言葉をよく耳にすると思います。
具体的にどんなものなのでしょうか?

処遇改善加算とは、保育士の賃金改善の補助制度

そもそも「処遇改善加算」という言葉が少しわかりにくいのですが、簡単に言うと「給与アップ」のことです。
冒頭にも書いたように、2013年、政府は「保育士処遇改善等加算」という補助金制度を開始して、職員の給料をアップして職員が定着することを目指しました。
その後も補助金は少しずつ増えていき、2017年には新たな処遇改善加算制度(処遇改善加算Ⅱ)が追加されました。
この補助金は、基本的には保育所が市町村から受け取る委託費の中に含まれています。
ただ、認定こども園の場合は施設型給付費の中に、企業主導型保育事業の場合は運営費の中に含まれるなど、施設によってどの費用に含まれるかは異なるようです。

なぜ保育士の処遇を改善するのか

保育士の処遇を政府が改善しようとする背景には、待機児童問題の深刻化と保育士の慢性的な不足があります。
保育士が不足する原因のひとつは、離職してしまう保育士がいることです。
離職の理由はさまざまですが、厚生労働省が発表したデータによると、退職理由の中で2番目に多かった回答が「給与が安い」というものでした。
この結果を受け、処遇改善等加算の制度が作られて、保育士の給与が改善されたのです。

保育士の処遇改善加算は「加算Ⅰ」「加算Ⅱ」の2種類

保育士の処遇改善加算は「加算Ⅰ」「加算Ⅱ」の2種類
保育士の処遇改善加算は「加算Ⅰ」「加算Ⅱ」の2種類があります。
それぞれの特徴や具体的な内容をみていきましょう。

保育士の処遇改善加算 加算Ⅰの特徴

加算Ⅰは、2015年に始まった、職員の賃金改善やキャリアアップの取り組みに応じて人件費を加算する制度です。
施設の平均勤続年数によって加算率が上がり、常勤職員だけでなく、パート・派遣などの非常勤職員も対象になります。
加算Ⅰの内訳は「基礎分」「賃金改善要件分」「キャリアパス要件分」の3つです。

加算Ⅰの内訳 内訳内容 対象
基礎分
  • 平均経験年数に応じ、2~12%の加算率が適用
  • 処遇改善等加算Ⅰの基礎分に係る加算額は、職員の賃金の勤続年数を基準として行う昇給にあてること
すべての施設・事業所
※非常勤職員及び法人の役員を兼務している職員を含む
賃金改善要件分
  • 平均経験年数 11 年未満の施設・事業所は一律6%
  • 11年以上の施設・事業所は一律7%の「加算率」(キャリアパス要件分含む)が適用
賃金改善要件に適合する施設・事業所
キャリアパス要件分 キャリアパス要件に適合しない施設・事業所は②賃金改善要件分(6~7%)から
2%減算される
施設全体のキャリアアップに向けて以下のような要件を満たす施設・事業所

  • 役職や職務内容などに合わせた勤務条件と賃金体系の設定
  • 職員の資質向上のための目標設定
  • 目標を実現させるための具体的な計画・研修の実施 ほか

参考 内閣府「施設型給付費等に係る処遇改善等加算Ⅰ及び処遇改善等加算Ⅱについて」

加算Ⅰの加算率は施設ごとに算出されますので、手当の配分も施設によって異なります。
「同じ経験年数であっても、働き先の保育園によって手当の額が違う」と覚えておきましょう。

保育士の処遇改善加算 加算Ⅱの特徴

2017年に始まった加算Ⅱは、職員の技能・経験の向上に応じた追加的な賃金の改善に要する費用を加算する制度です。
これまで、保育園では園長(理事長)や主任といった役職しかありませんでした。
そのため、「ベテランしならないとキャリアアップできない」「園長や主任以外が後輩指導・リーダー職をおこなっても、役職手当が出ない」という問題があったといいます。
そこで、加算Ⅱを制定し、保育園に以下のような新たな役職を設け、その職務・職責に応じた処遇改善の実施を開始しました。

加算Ⅱで設置された新たな役職 役職の要件 処遇改善の内容
副主任
  • 経験年数概ね7年以上
  • 職務分野別リーダーを経験
  • マネジメント+3つ以上の分野研修を修了
  • 研修終了後、副主任保育士としての発令を受けていること
月額4万円を支給
専門リーダー
  • 経験年数概ね7年以上
  • 職務分野別リーダーを経験
  • 4つ以上の分野の研修を修了
  • 研修終了後、専門リーダーとしての発令を受けていること
月額4万円を支給
職務分野別リーダー
  • 経験年数概ね3年以上
  • 担当する6つの職務分野の研修を修了
  • 修了した研修分野に係る職務分野別リーダーとしての発令を受けていること
月額5000円を支給

新設された役職に就くためには、「キャリアアップ研修」を受ける必要があります。
処遇改善だけでなく、研修も受けることによって、若手や中堅の保育士がキャリアを積み上げやすくなり、「保育の質」が向上するでしょう。

【研修分野】

  1. 乳児保育
  2. 幼児教育
  3. 障害児保育
  4. 食育・アレルギー
  5. 保健衛生・安全対策
  6. 保護者支援・子育て支援
  7. 保育実践
  8. マネジメント

また、加算Ⅱでは、そのほかにも、役職の保育士や、主任、園長も含む全職員の処遇を2%(月額6000円程度)改善しています。

参考 厚生労働省「保育士等の処遇改善案について」
内閣府「施設型給付費等に係る処遇改善等加算Ⅰ及び処遇改善等加算Ⅱについて」

保育士の処遇改善「加算I」「加算II」の違い

保育士の処遇改善「加算I」「加算II」の違い
前項で説明した加算Iと加算IIですが、2つの違いがあります。

  1. 対象となる職員
  2. 給与の上がり方

それぞれの特徴をチェックして、今後どの加算が保育士の給与にどのように反映されるのかを押さえていきましょう。

保育士の処遇改善加算 加算Ⅱの違い
対象となる職員

まず、加算1と加算Ⅱでは、対象となる職員が異なります。

加算の種類 対象となる職員
加算Ⅰ 常勤職員だけでなく、パート・派遣などの非常勤職員も対象
※1日6時間以上かつ月 20 日以上勤務している職員が対象
加算Ⅱ およそ3年~7年以上の保育士経験があり、指定された分野のキャリアアップ研修を修了した職員が対象

また、加算Ⅱの職務分野別リーダーに就ける人数は、園長と主任保育士を除く職員数の1/5まで、専門リーダー・副主任保育士に就ける人数は1/3となっています。

保育士の処遇改善加算 加算Ⅱの違い
給与の上がり方

加算Ⅰと加算Ⅱでは、給与の上がり方や処遇改善として配当される金額が異なります。

加算の種類 給与の上がり方
加算Ⅰ 【基礎分加算率】
平均勤続年数1年未満で2%
平均勤続年数1年で3%
平均勤続年数10年以上で一律12%

【賃金改善要件分の加算率】
平均勤続年数11年未満の施設で6%
平均勤続年数11年以上で7%
※キャリアパス要件を満たさない場合は2%減額

加算Ⅱ 副主任・専門リーダー…月額4万円を支給
職務分野別リーダー…月額5000円支給
※全職員に対して2%(月額6000円程度)の処遇改善

加算Ⅰの「基礎分」は基本給や手当に充てることが義務づけられていますが、「賃金改善要件分」は、確実に賃金アップを行うなら賞与で職員に還元することもできます。

一方、加算Ⅱは毎月、該当金額を上乗せする仕組みになっているのが特徴です。
加算Ⅰは「基本給・手当・賞与」、加算Ⅱは「月額」の給与がアップすると覚えておきましょう。

2022年4月から新たな処遇改善が実施

2022年4月から新たな処遇改善が実施
2022年1月、政府は、この2月から教育・保育の現場で働く人の収入を引き上げる新たな補助を発表しました。
保育現場で「処遇改善加算III」とも呼ばれています。
具体的には、これは以下の施設を対象に、収入を3%程度(月額9000円)引き上げるための費用を補助するものです。

対象施設
  • 保育所
  • 幼稚園
  • 認定こども園
  • 家庭的保育事業
  • 小規模保育事業
  • 居宅訪問型保育事業
  • 事業所内保育事業
  • 特例保育を行う施設
補助内容 収入を3%程度(月額9000円)引き上げるための費用を補助(補助額は公定価格上の職員の配置基準を基に算定)
補助の要件
  • 補助額の全額を賃金改善にあてること
  • 賃金改善について最低でも改善額全体の3分の2以上を基本給または決まって毎月支払われる手当により行うこと

最低でも改善額全体の2/3以上が、基本給もしくは毎月の手当に含まれるので、現場の保育士・職員の月収・年収は確実に上がるはずです。
常勤・非常勤は問わず、該当する園に勤務している職員であれば支給されます。

2022年4月からの新たな処遇改善のポイント
保育士以外の職員も対象

今回の処遇改善の対象は、保育士だけではありません。
調理員や栄養士、事務職員など、施設・事業所に勤務するすべての職員も対象です。
ただし、法人役員を兼務する施設長や、延長保育・預かり保育などの通常の教育・保育以外のみに従事している職員は対象ではありません。

2022年4月からの新たな処遇改善のポイント
必ずしも一律同額になるわけではない

今回の新しい処遇改善では、「個々の職員の賃金改善を必ずしも一律同額とする必要はない」とされており、事業者が各施設・事業所の状況を踏まえて、改善額を調整することが可能です。
つまり、職員配置状況によっては職員1人あたりの引上げ額が月額9000円を下回ることもあります。
ただ、特定の職員に合理的な理由なく偏った賃金改善が行われるといった状況とならないように、内部監査や組織管理に注力する必要があるでしょう。

2022年4月からの新たな処遇改善のポイント
令和4年10月以降も収入引き上げは続く見込み

今回の新しい処遇改善の実施期間は令和4年2~9月ですが、令和4年10月以降も、公定価格の見直しにより、収入を3%程度(月額9000円)引き上げる措置が継続される予定だと言われています。
今後も保育現場の処遇改善の取り組みに注目しましょう。

参考 内閣府「保育士・幼稚園教諭等を対象とした処遇改善(令和4年2月~9月)について」
内閣府「保育士・幼稚園教諭等処遇改善臨時特例事業 リーフレット」

保育士の処遇改善加算を押さえてキャリアアップを目指そう

保育士の処遇改善加算を押さえてキャリアアップを目指そうとっつきにくく、わかりにくい処遇改善加算の仕組みを説明しました。
この仕組みは、保育士の離職理由の中で多い「給与の低さ」を改善し、離職を防止したり、若手や中堅がキャリアアップしやすくなる環境づくりを目指していることがおわかりいただけたと思います。
2022年4月からスタートする新制度にも注目して理解を深めていきましょう。


参考 横浜市「令和3年1月6日版 こども青少年局保育・教育運営課」
厚生労働省「保育士等の処遇改善案について」
厚生労働省「保育士の現状と主な取組」


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