たいていの保育園には、保育士さんにとって「気になる子」がいるはずです。
ここで言う「気になる子」とは、発達障害と診断されていないものの、保育園生活の中で支援が必要な子どものことです。
今回は、そんな「気になる子」の特徴や対応のポイントをご紹介します。
どうしたらいいか悩んでしまいがちな「保護者への伝え方」もあわせて解説しますので、「気になる子」の支援に困ったときの参考にしてください。
この記事のもくじ
「気になる子」とはどんな子?
保育現場では、「気になる子」という言葉をよく耳にすると思います。
まず、「気になる子」とはどのような子のことかを解説します。
「気になる子」とは、発達障害と診断されていないグレーゾーン
「気になる子」とは、発達障害と診断されているわけではありませんが、個別の支援が必要な子どものことです。
ほかの園児よりも「気になる行動」が多く、コミュニケーションや情緒面で問題が見られることが多い傾向にあります。
発達障害だけではなく、家庭環境や子ども本人の性格など、さまざまなものが要因となっている可能性があります。
「気になる子」の年齢や男女比
東京未来大学の研究データによると、保育士が「気になる子」の行動を気にし始めるのは、「子どもが2歳のとき」が多いようです。基本的には子どもが0~3歳の頃に気になってくることが多いようです。
参考サイト:東京未来大学「保育園における「気になるこども」の現状と支援の課題」
この研究では73園(297件分のデータ)にアンケートをとっていますが、「気になる子」のうち71.4%(212名)が男児、28.6%(85名)が女児とされています。
つまり、「気になる子」は2歳頃に確認されやすく、男児の方が多い傾向があると解釈できます。
発達障害の診断は何歳からできる?
発達障害が疑われる子どもの診断は、多くの場合、3歳半頃に行われます。
「早期診断が必ずしも正解とは限らない」ということには注意すべきです。
なぜなら、発達の遅れの原因が、発達障害だけではなく、家庭環境や子どもの個性である場合もあるからです。
発達や成長のスピードは、子ども一人ひとり異なります。
そのため、1~2歳の段階で診断しても、医師から「発達障害」と診断されず、「経過観察」となるケースも少なくありません。
「気になる子」を支援する際には、診断を優先させるのではなく、保育園での様子を観察して、適切な対応方法を実践していくのがいいでしょう。
保育園での「気になる子」の特徴
保育園での「気になる子」の特徴として、次のような問題がよく確認されます。
- 言葉・コミュニケーションに関する問題
- 行動に関する問題
- 対人関係に関する問題
- 情緒に関する問題
- 生活習慣に関する問題
保育する上で配慮すべきポイントを、それぞれチェックしていきましょう。
気になる子の特徴①
「言葉・コミュニケーション」に関する問題
「気になる子」の多くは、言葉・コミュニケーションに関する問題を抱えています。
- 発語の遅れが見られる
- 言葉(「おいで」「すわる」など)が理解できず行動できない
- 話を一方的にして終了させてしまう
- 指示語が分からない
- 言葉のボキャブラリーが乏しい
発語の遅れや言葉の理解力が乏しいといった「発達の遅れ」だけでなく、周りの子どもと「双方向でのコミュニケーションが取れない」という様子が見られることもあります。
また、言葉でのやり取りが難しいことから、「行動」で補おうとするケースも少なくありません。
気になる子の特徴②
「行動」に関する問題
「気になる子」と呼ばれる子どもには、行動面での問題も見られます。
- じっとしていられない
- 保育室をウロウロする
- ぼーっとしていることが多い
- 呼びかけても反応しないことが多い
- 衝動性が強い
子どものもともとの性格・気質が要因である可能性もありますが、集団生活に支障をきたす場合は、加配保育士をつけるといった支援が必要です。
気になる子の特徴③
「対人関係」に関する問題
対人関係に関する問題を抱える「気になる子」も少なくありません。
- 友だちとのけんか・トラブルが多い
- 友だちに噛みつくことがある
- すぐに手が出る・物を投げる
ほかの子どもと一緒に遊ばない
「気になる子」は言語能力やコミュニケーション能力に問題を抱えているケースが多く、そのことが原因で、ほかの子どもとトラブルに発展してしまうことがあります。
「言いたいことがあるのにうまく伝えられない」「相手の言っていることが分からない」といったもどかしさから、友だちに手をあげてしまうケースも多いのです。
気になる子の特徴④
「情緒」に関する問題
感情のコントロールが難しいのも、「気になる子」の特徴の一つです。
- 自分の思い通りにならないとパニックを起こす
- 怒りや悲しみなどの感情がコントロールできない
- 泣き叫ぶことが多い
- 切り替えが難しい
- 切れやすい
- 「死んでやる」と言う
もともとの気質だけでなく、家庭環境や日々のストレスなども要因として挙げられます。
子どもが感情を爆発させたときは、しばらく様子を見守って落ち着くのを待ちましょう。
気になる子の特徴⑤
「生活習慣」に関する問題
「気になる子」には生活習慣に関する問題も多くみられます。
- 苦手なことが上達しにくい
- 準備や片付けなどが身につかない
- 衣服の着脱が苦手
- こだわり行動がある
服のボタンをかけたり外したりする動作や、ご飯の準備や片付けなど、毎日の中で身に付くはずの動作や習慣が身に付きにくい傾向もあります。
何度も繰り返し援助して、徐々に身に付くように見守ることが大切です。
保育園での「気になる子」の対応ポイント
保育園での「気になる子」の対応ポイントは主に次の5つです。
- ポジティブな面も見つけて褒める
- さまざまな対応方法を試す
- 記録を取ってほかの保育士との連携を図る
- 個別のカリキュラムを組む
- 専門機関へ相談するのもあり
それぞれの対応を詳しく見ていきます。
「気になる子」の対応ポイント①
ポジティブな面も見つけて褒める
「気になる子」を支援する際には、マイナス面ばかりに目を向けるのではなく、ポジティブな面を見つけて、褒めてあげることが大切です。
「気になる子」は家庭でも保育園でも注意されることが多いので、そのことが原因で自己肯定感が低くなりがちです。
「誰も自分のことを分かってくれない」「味方がいない」という孤独感があるために、ますます支援が困難になることもあります。
「頑張って○○したね」「えらいね」といったポジティブな言葉かけを心がけて、子どもとの信頼関係を築いていきましょう。
「気になる子」の対応ポイント②
さまざまな対応方法を試す
「気になる子」の支援方法はたくさんあります。
でも、どの方法がその子どもに合っているのかはわかりません。
子どもは千差万別なのです。
「むやみに干渉せず、できるだけ見守る」「褒めて伸ばす」「視覚に訴えるテキストを用意する」など、さまざまな支援方法を試してみましょう。
「気になる子」の対応ポイント③
記録を取ってほかの保育士との連携を図る
「気になる子」を支援するときは、しっかりと記録を取りましょう。
多くの保育園では「気になる子」の周りの子どもとの関わりの様子、保育中の様子、生活習慣の上達度など、毎日の様子を記録しています。
うまくいった支援方法を記入すれば、ほかの保育士と情報を共有できるようになります。
「保育園全体で見守る」という環境を作りましょう。
「気になる子」の対応ポイント④
個別のカリキュラムを組む
個別でカリキュラムを組むのもおすすめです。
「気になる子」は同じクラスの子どもより、ゆっくり発達・成長します。
担当するクラスのカリキュラムを作成する場合は、「気になる子」専用のカリキュラムを作り、その子どもの発達・成長段階に合った目標・内容を考えましょう。
「気になる子」の対応ポイント⑤
専門機関へ相談するのもあり
「気になる子」の対応に困ったときは、専門機関へ相談してもよいでしょう。
子どもの発達障害に関する相談ができる専門機関は以下の通りです。
- 区市町村の障害福祉課
- 保健センター
- 子育て支援センター(子ども家庭支援センター)
- 児童相談所
発達障害者支援センター
「気になる子」を支援するためには、保育園・専門機関・保護者の3者の連携が欠かせません。
発達障害の疑いがある子どもや問題行動が多い子どもの支援方法、そして保護者への呼びかけ方などを相談してみましょう。
「気になる子」の保護者への伝え方
保育園での問題行動があまりにも目立ってしまう場合には、子どもの様子を保護者に共有することが必要です。
その際に気を付けるべきポイントが3つあります。
- 疑われる発達障害の名称を明言しない
- 具体的な場面・行動を説明する
- 家庭と保育園での様子の違いも受け止める
保育士は、お医者さんではありません。
子どもが発達障害だと決めつけ、「この子は発達障害かもしれません」「自閉症スペクトラム障害の疑いがあります」などと説明するのは厳禁です。
保護者に子どもの様子を伝える場合は、具体的な場面・行動を客観的に説明しましょう。
効果的な接し方や対策を伝えるのもおすすめです。
また、「気になる子」は家庭にいるときと保育園にいるときとで様子が違うかもしれません。
そのため、保護者と保育士の見解が異なることも珍しくありません。
「保育園では〇〇だから、家でも〇〇に違いない」と決めつけてしまわず、見解の違いを受け止めて、連携しながら子どもを見守りましょう。
「気になる子」の気持ちに寄り添った支援を!
保育園で「気になる子」を支援するときは、とにかくその子どもの気持ちに寄り添うことが大切です。
困った行動があったからといって、「発達障害だからかも?」と決めつけず、子どもの目線に立って「なぜそうなったのか?」を探りましょう。
子どもが心地よく生活できる環境を作り、適切な配慮を心がけることが、支援の第一歩です。
周りの保育士や保護者、そして必要であれば専門機関と連携を図りながら支援していきましょう。
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