これって虐待?と思ったら。保育士ができる虐待の対応、関連機関へ通報するときのポイント

これって虐待?と思ったら。保育士ができる虐待の対応、関連機関通報のポイント

保育士は、子どもを預かるだけでなく、虐待を早期に発見するという重要な役割を担っています。とはいえ、実際に子どもの異変を感じた際、どのように対応するべきかと悩んでしまう人もいることと思います。
今回は保育園での虐待への対応フロー、関連機関へ通報するときのポイントを紹介します。

子どもへの虐待にまつわる現状

児童虐待とは、本来子どもを守り育てるべき大人が、子どもの心身を傷つけ、子どもの健やかな成長や人格の形成に多大な影響を与えてしまう行為です。
残念なことですが、昨今、虐待をめぐるニュースや報道は絶えず、社会全体で向き合うべき問題です。
まず、児童虐待の定義や虐待件数、背景などを解説していきましょう。

虐待の分類

虐待は、主に「身体的虐待」「性的虐待」「ネグレクト(育児放棄)」「精神的虐待」の4つに分類されます。

虐待の分類 具体的な虐待行為
身体的虐待
  • 殴る、蹴る
  • 熱湯をかける
  • 溺れさせる
  • 逆さ釣りにする
  • タバコの火を押し付ける
  • 頭部を激しく揺さぶる
  • 戸外に閉め出す など
性的虐待
  • 子どもへの性的行為、性的行為を見せる
  • 性器を触る、触らせる
  • 子どもの裸を写真・ビデオに撮影する
  • 子どもの前でわいせつな言葉を発する、性的な話をする(無理やり聞かせる・話させる)
ネグレクト
  • 十分な食事を与えない
  • おむつを替えない、衣服や下着を替えないなど、長期間不潔なままにする
  • 子どもを不潔な環境の中で生活させる
  • 病気やけがをしても病院に連れて行かない
  • 乳幼児を車内に放置する
  • 子どもが求めているのにスキンシップをしない
  • 子どもの意思に反して登校させない
精神的虐待
  • 言葉や態度による脅迫
  • 子どもを無視したり、拒否的な態度を示したりする
  • 日常的に 「バカ」「あほ」など侮蔑的な言葉をかける
  • 子どもの失敗を執拗に責める
  • きょうだいとは著しく差別的な扱いをする
  • 子どもの前で家族に対して暴力・暴言をふるう
※それぞれの分類で重複している場合もあります

こうした虐待は、低身長 ・ 低体重などの発育不良、無気力、問題行動など、子どもの心身に大きな影響を与えてしまいます。
中には愛着を形成することが困難になってしまうケースも多く、保育園に通う子どもの場合、特定の保育士にかなり近い距離間で関わろうとする様子も見受けられます。
また一方で、「どこまで自分を受け入れてくれるのか」を測るために、わざと保育士を怒らせたり困らせたりするといった「試し行動」が顕著に見られるのも特徴です。

虐待の相談件数は増加傾向

児童虐待の相談件数は近年増加傾向にあります。
2022年度に全国の児童相談所が対応した虐待相談の件数は21万9,170 件です。
2021年度の20万5,044件から1万1,510件増加し、過去最多となりました。
虐待相談の内容は、精神的虐待が12万9,484件(59.1%)、身体的虐待が5万1,679件 (23.6%)、
ネグレクトが 3万5,556件 (16.2%)、性的虐待が2,451 件(1.1%) と、精神的虐待に次いで身体的虐待が多い結果となっています。

参考 こども家庭庁「令和4年度 児童相談所における児童虐待相談対応件数(速報値)」

虐待が起こる原因

児童虐待の原因と考えられるものは複数あります。
たとえば家庭の経済状況が不安定だったり、保護者同士が不仲だったり、職場をはじめとする人間関係によるストレスが溜まっていたり、というふうに家庭によってさまざまな原因があります。
また、保護者の心身の健康状態、逆に子どもの健康状態や発達なども虐待の背景となりえます。
育児や仕事、家族間のストレスなどは多くの家庭に共通する悩みであり、相談できる人が周りにいない環境にいると、親子が孤立しやすく、虐待が悪化することがあります。
そのため、保育園をはじめとする福祉施設や地域が悩みを抱える家庭に寄り添い、必要な支援を行うことが重要です。

保育士が虐待に気付くためのポイント

保育園をはじめ福祉施設は「虐待の通告義務」があります。

【児童虐待の防止等に関する法律】

第 6 条 児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを市
町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して
市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければな
らない。

通告義務に伴い、保育士は日々の保育の中で「虐待のサイン」にいち早く気付き、速やかに対応することが求められます。
さて、しかし、「虐待のサイン」とは具体的にどんなものなのでしょうか?
ここでは、子どもや保護者の様子からうかがえる虐待のサインについて解説します。

子どもの身体・健康

目視で確認できる虐待のサインの1つは、子どもの身体です。

  • 身体に不自然なあざ、傷、やけどなどがある
  • ケガが放置されている
  • 髪を洗っていない、匂う、爪が伸びっぱなしなど、身体がいつも不潔な状態
  • 特別な病気ではいにもかかわらず、身長の伸びや体重の増加といった発育が進んでいない

頭部や顔面、腹部のあざや傷がみられる、慢性的にあざや火傷が見られる、また致死的な外傷や栄養失調が見られるなど、緊急性が高い場合は速やかに通告することが推奨されています。

子どもの表情

虐待のサインは子どもの表情からも読み取ることができます。

  • 表情が乏しく、無表情
  • 口数が少ない
  • おどおどしたり、おびえた表情を見せたりする
  • 乳児の場合、保育士からの語りかけや、あやしに対する反応が薄い

感情表現の度合いは子どもによって異なりますが、虐待の疑いがある子どもの場合は、反応が極端に薄かったり、逆にかんしゃくが激しかったりするケースが多く見受けられます。

子どもの行動・生活の様子

子どもの行動や生活の様子から、家庭での様子が垣間見える瞬間があります。
次のような様子が見られる場合は、虐待の可能性があるとして注意深く見守りましょう。

  • 衣類が不潔な状態
  • 日常的に嘘をつく
  • 給食をむさぼるように食べる
  • 小動物に対する虐待行為

そのほか、予防接種や健康診断を受けていない場合や理由なく欠席することが多い場合は、注意が必要かもしれません。

子どもの他者との関わり方

親子間のコミュニケーションは、子どもの友だちや周囲の人との接し方に大きく影響します。
子どもの保育園でのコミュニケーションに何か違和感を覚える際は、虐待の可能性を視野に入れつつ注意して見守る必要があります。

  • 保育士を独占したがる、過剰に甘える
  • ささいなことで怒り、周囲の子どもへの乱暴を働く
  • 年齢にふさわしくない性的な言葉、性的な行動が見られる
  • 保護者の前では従順な態度を見せる

虐待の疑いがある子どもの中には、保護者を前にするとおびえた様子、もしくは従順な態度を見せたりすることがあります。
また、保護者が迎えに来ても帰りたがらないこともあるため、ほかの園児や保育士との関わり方だけでなく、親子間の様子もうかがいましょう。

虐待が疑われたら…保育園での虐待対応フロー

子どもが虐待を受けていると疑われた際、保育園では具体的にどのような流れで対応を進めていくのでしょうか?
ここでは、保育園での虐待対応フローをステップごとに解説します。

まずはリーダー層や園長に相談・報告

担当しているクラスの子どもや保護者から虐待のサインを見つけた場合は、まずは主任やフロアリーダーなどの上司や園長にも相談・報告しましょう。
子どもや保護者の様子、気付いた日時などを記録に残しておくと、報告がスムーズになり、その後に関連機関へ通告する際も大きな手掛かりとなします。

情報収集・現状把握のうえ、園長が方針を決定

リーダー層や園長に相談した後は、リーダー職員や園長が情報収集・現状把握を行います。
保育士を集めて情報を共有し、事実関係を整理して通告するかどうかを検討し、最終的には、園長が方針を決定します。

関係機関へ相談・通告

虐待の通告先は、市町の虐待対応担当課(児童福祉主管課)もしくは児童相談所です。
通告の際は、口頭で保育園が把握している情報を機関に共有しましょう。

【通告時に関連機関へ共有する情報】

  • 園児の氏名、生年月日、住所、在園歴など
  • 虐待と疑われる点
  • 現時点で園児がいる場所(園にいる、自宅に帰っている、登園していないなど)
  • 家庭の状況(保護者の状況、きょうだいの有無、同居家族の有無など)

通告を受けた市町や児童相談所は、通告から48時間以内に子どもの安全確認を行う必要があるため、保育園側は子どもが在園しているうちに、できるだけ速やかに連絡しましょう。

関連機関へ通報するときのポイント

 

最後に、市町や児童相談所へ虐待を通告する際のポイントを3つ紹介します。

できるだけ早い段階で相談・報告する

虐待かどうか判断に迷っているうちに、虐待の証拠となりえる子どもの身体にある傷が治ってしまいます。
傷が治った後では、市町や児童相談所が調査や保護者への指導をスムーズに実施しにくくなるため、虐待の疑いに気付いたら、可能な限り気付いたその日に通告しましょう。

虐待かどうか判断に迷う場合も通告する

「通告」と聞くと敷居が高く感じる人もいるでしょう。
「虐待だと思うけど、もしかしたら違うかもしれない…」と迷って、なかなか通告に踏み出しづらい場合もあるかもしれません。
しかし、通告はあくまで「市町村児童相談担当部署や児童相談所に連絡すること」であり、保育士や教職員が児童虐待を証明する必要はありません。
確証がなくても通告することが推奨されていますし、誤りであったとしても責任は問われないので安心してください。
もし判断に迷う際は、「虐待かどうかの判断に迷う」といった旨を相談してみましょう。

場合によっては警察への通報も

子どもの命や身体に対する危険性、緊急性が高いと考えられる場合は、警察にも通報しましょう。
また、保護者から威圧的な要求や暴力の行使などが想定される場合も同様です。

虐待の「疑い」でも速やかに通告を!

保育園は子どもたちの生活の場であり、子どもと日々関わる保育士だからこそ、虐待のサインに気付けるチャンスがあります。
今回紹介した虐待のサインや保育園での対応フローなどを参考に、市町や児童相談所などの関連機関と連携しながら虐待防止・対策に努めていきましょう。
 

こちらの記事もどうぞ