近年、保護者が子どもに対して必要なケアを与えない「ネグレクト(育児放棄)」の虐待ケースが増加傾向にあります。ネグレクトにいち早く気付くために、今回は子どもが見せるネグレクトのサインや、保育士ができる対応について紹介します。
この記事のもくじ
子どもの保護・養育を放棄する「ネグレクト」
ネグレクトは、子どもの心身の正常な発達に必要なケアを行わない虐待です。
もともとは怠慢・無視などの意味を持つ「Neglect」に由来する言葉で、子どもだけでなく障害のある人や高齢者、患者に対する虐待も指します。
こども家庭庁によると、具体的には以下の行為がネグレクトにあたります。
- 家に閉じ込める
- 食事を与えない
- ひどく不潔にする
- 自動車の中に放置する
- 重い病気になっても病院に連れて行かない など
参考
e-ヘルスネット(厚生労働省)「ネグレクト」
こども家庭庁「児童虐待防止対策」
近年、ネグレクトは増加傾向
2022年度の児童虐待相談対応件数(速報値)は21万9,170件で、前年度より11,510件増え、過去最多を更新しました。
虐待のうち増加率が一番高かったのが、ネグレクトです。
ネグレクトは前年より、4,108件(+13.0%)増加するという結果になりました。
次いで性的虐待が204件(+9.0%)、身体的虐待が2,438件(+4.9%)、心理的虐待が4,760件(+3.8%)増加となっています。
参考 こども家庭庁「こども家庭庁 令和4年度の児童虐待相談対応件数(速報値)を公表」
ネグレクトの要因
ネグレクトは病気や貧困、家庭の孤立などの要因が複雑に絡み合って発生します。
たとえば経済的にストレスを抱えている家庭の場合、子どもに十分な食事を与えられなかったり、保育園や幼稚園で必要な身の回りの用品を揃えられなかったりする場合があります。
保護者が仕事で疲れてしまい、子どもを放置してしまうこともあるでしょう。
また、保護者がうつ病や双極性障害などの精神疾患(未治療)、知的障害を抱えている場合、ネグレクトが生じる傾向が強くなります。
そのほか、ワンオペ育児や子どもに障害があると、育児の困難さやストレスからネグレクトにつながる可能性もあります。
このように近しい家族や親せき、友人など周囲に頼れる人がいない「孤立した家庭」は、保育園や支援機関などの支援が必要です。
ネグレクトによる子どもへの影響
子どもが十分な食事を得られないと、栄養失調や脱水症につながるほか、身体の発育不良といった身体的な影響が生じます。
また、ネグレクトではケガや感染症に対する医療ケアが適切に行われないケースもあるため、患部の状態や病状が悪化することも。
保護者から放置され、十分な愛情が与えられない場合は、愛着障害や情緒の不安定さにつながります。
さらに、子どもに必要な保育・教育を受けさせない事案では、言語発達の遅れや学力が定着しないといった影響もあるでしょう。
ネグレクトの種類
ネグレクトは主に4つの種類に分けられます。
- 身体的ネグレクト
- 医療的ネグレクト
- 情緒的ネグレクト
- 教育的ネグレクト
それぞれの内容を具体的に紹介していきます。
身体的ネグレクト
身体的ネグレクトは、生活の基本である衣食住を適切に与えないことです。
たとえば、
「気候・天候に適した衣服を着せない」
「成長に必要な十分な食事を与えない」
「入浴をさせない・オムツ替えをしない」
「極端に不潔な環境で生活させる」
といったものがあげられます。
また、子どもを長期間一人で放置したりするのも身体的ネグレクトに含まれます。
この放置というのは、子どもにとって非常に危険なことです。
電気ケトルやアイロン、火のついたタバコなど、火傷のリスクがあるものを子どもがいる空間で放置したり、親の目が必要な乳幼児を家に残したまま外出したりと、危険な状態を放っておくと事故やケガにつながります。
中には、子どもを車の中に放置して、子どもが熱中症になるといった事案もあります。
医療的ネグレクト
医療的ネグレクトは検診や予防接種、病気の治療など、子どもに必要な医療ケアを受けさせないことです。
日本小児科学会は、次の①~⑤の全てを満たす状況で、子どもに対する医療行為を行うことに関して保護者が同意しない場合「子どもに重大な影響を及ぼす医療ネグレクトと考えてよい」としています。
- 子どもが医療行為を必要とする状態にある
- その医療行為をしない場合、子どもの生命・身体・精神に重大な被害が生じる可能性が高い(重大な被害とは、死亡、身体的後遺症、自傷、他害を意味する)
- その医療行為の有効性と成功率の高さがその時点の医療水準で認められている
- 子どもの状態に対して、保護者が要望する治療方法・対処方法の有効性が保障されていない
- 通常であれば理解できる方法と内容で、子どもの状態と医療行為について、保護者に対して説明がされている
情緒的ネグレクト
情緒的ネグレクトは、発達に必須な情緒的な欲求に応えないことを指します。
具体的には、保護者が愛情やそのほかの情緒的なやりとりをせず、子どもを無視したり、拒絶したりすることです。
他の子どもや大人との交流を妨げられれるケースもあります。
教育的ネグレクト
教育的ネグレクトは、子どもに必要な教育を受けさせないことです。
子どもの意思に反して保育園・幼稚園・学校に通わせなかったり、そもそも学校に入学させなかったりすることを指します。
子どもが見せるネグレクトのサイン
ネグレクトにいち早く気付くためには、子どもが見せるサインを見逃さないことが大切です。
ここでは、子どもが見せるネグレクトのサインをカテゴリー別に紹介します。
保育現場での虐待対策としてチェックしてみましょう。
食事面
家庭で十分な食事が与えられていない子どもは、次のような行動を見せる場合があります。
- ガツガツとむさぼるように食べる
- 給食を何度もおかわりする
- 常に空腹で、疲れた様子
保育園での給食やおやつの時間に、子どもがこのような行動を頻繁に見せたら注意が必要です。
健康・衛生面
ネグレクトのサインは、健康・衛生面からも見受けられます。
- 低身長・低体重、肥満
- 虫歯が多い
- 体が臭う
- 服が汚れている、もしくはボロボロ
- オムツかぶれがひどい
ネグレクトを受けている子どもは、ご飯を食べさせてもらえないために低身長・低体重、栄養失調になりがちです。
逆に、不適切な食事や生活習慣の乱れによって肥満になることもあります。
また、保護者やオムツを長時間取り替えないことからオムツかぶれがあったり、着替えをさせないことから服が汚れていたりする場合も。
情緒面
情緒面や、集団生活の中におけるコミュニケーション面で次のような様子も見られます。
- 友達や保育士に対して、攻撃的で乱暴的
- 保育士に異常なほど甘える
- ルールを守るのが苦手
- 無気力・無関心
ネグレクトを受けている子どもは保護者と適切な愛着関係が築けていないことから、他者とも上手く関係を築きにくい傾向があります。
周囲の人に対して乱暴な態度を取ったり、逆に異常にべたべたしたりと、距離感に違和感がある子どもが多く見られます。
保護者の様子
子どもだけでなく保護者の様子からも、ネグレクトを察することができます。
- 保育園の無断欠席、遅刻が多い
- ほかの保護者との交流がなく、孤立している
- 子どものケガや病気を放置している
- 保育園でオムツや着替えの補充をしない
子どもが保育園で生活するうえで必要なものを保護者が揃えなかったり、子どものケガや病気を放置したりといったことが多い場合は、ネグレクトのサインかもしれません。
保育士ができるネグレクトの対応
ネグレクトに気付いたとき、保育士ができる対応をステップごとに紹介します。
各ステップでのポイントも一緒に押さえておきましょう。
まずは記録を残す
子どもや保護者からネグレクトのサインを見つけた場合は、まずは記録を残しましょう。
この記録は、後で周りの保育士や関係機関へ相談するときに必要な情報となります。
虐待と疑われる点や、発見したときの日時や状況、子どもの発言や様子など、できるだけ具体的にメモしておきましょう。
周りの保育士と共有
次に、主任・フロアリーダーなどの上司や園長などの職員と共有します。
その後はリーダー職員や園長が情報収集・現状把握を行い、関係機関に通告するかどうかを検討します。
児童相談所へ相談
虐待の通告先は、児童相談所や市町の虐待対応担当課(児童福祉主管課)です。
通告を受けた市町や児童相談所は、通告から48時間以内に子どもの安全確認を行う必要があるため、保育園側は子どもが在園しているうちに、できるだけ速やかに連絡しましょう。
保育園での虐待対応フローについては、こちらの記事で詳しく紹介しています。
ネグレクトのサインにいち早く気付いて、適切な対応を!
どんな子どもでも、保護者からのケアや愛情は必要です。
しかし、ネグレクトを受けた子どもたちは、本来子どもを守るべき大人から放置され、必要な支援が受けられていません。
場合によっては、事故やケガ、事件などにつながる可能性もあります。
だからこそ、保育士が子どもの安全や、健やかな成長のためにいち早くネグレクトのサインに気付くことが重要です。
子どもを守る「保育者」として、子どもに変わった様子がないか日々見守っていきましょう。
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