子どもたちの笑顔を引き出す保育士さん。でも、その笑顔の裏で、誰にも言えない悩みやストレスを抱え込んでしまってはいませんか?
「最近、あの子元気がないな…」「少し無理しているんじゃないかな?」
現場を預かる園長先生や主任の先生なら、そんな小さな変化に気づく瞬間があるかもしれません。
この記事では、大切な仲間である保育士さんたちの「心の健康(メンタルヘルス)」を守るために、管理職に何ができるのか、今日から始められる具体的なアクションを一緒に考えていきたいと思います。
この記事のもくじ
なぜ今、「保育士さんの心のケア」が大切なの?
まずは、どうして今、このテーマにしっかりと向き合う必要があるのか、少しだけ背景をお話しさせてください。
現場は、私たちが思う以上にギリギリかもしれません
実は、保育士さんの4人に1人が「心身の不調を感じている」というデータもあるほど、現場の負担は大きくなっています。子どもたちの命を預かる責任感、保護者対応、複雑な人間関係、そして持ち帰り残業…。真面目な先生ほど、「私が頑張らなきゃ」と無理を重ねてしまいがちです。
先生の笑顔は、園の宝物です
もし、心身の限界で先生が離職してしまったら…。それは園にとって大きな痛手となるだけでなく、残された職員の負担増という悪循環を生んでしまいます。逆に言えば、先生たちが心に余裕を持って働ける環境をつくることは、そのまま保育の質を高め、保護者の方からの信頼にもつながる、園経営の要(かなめ)なのです。
だからこそ、何かあってから対処するのではなく、「予防」と「支える仕組み」の両方を、私たち管理職がリードしていく必要があります。
予防のためにできること
〜日常の風景を少し変えてみる〜
「メンタルヘルス対策」といっても、大掛かりなシステムを入れる必要はありません。日々のちょっとした関わり方を変えるだけで、予防の効果は生まれます。
「ここなら言える」という安心感を
「誰もが相談しやすい職場」って、どんな職場でしょうか?
それはきっと、園長や主任が「先生、ありがとう」「助かったよ」と日常的に声をかけ、小さな変化に気づいてくれる場所ではないでしょうか。
「忙しくて話しかけづらいオーラ」を出していませんか?
まずは私たちから、「何か困ってることはない?」と声をかけ、孤立させない雰囲気をつくることが、最初の一歩です。
頑張りを見える化し、無理をさせない
行事の前など、特定の先生に負担が集中していませんか?
「あの先生なら大丈夫」という信頼は、時として重荷になります。業務量や行事スケジュールを一度全員で見直し、「この時期はみんなでサポートしよう」「行事の後は必ず代休を取ろう」と、**組織として休息を守る**姿勢を見せることが大切です。
「自分の守り方」を知ってもらう
先生たち自身も、ストレスとの付き合い方を知る必要があります。
「辛い時は辛いと言っていいんだよ」「自分のケアも仕事のうちだよ」と伝え、セルフケアの研修を取り入れたり、キャリアの相談に乗ったりすることで、「この園で長く働きたい」という前向きな気持ち(モチベーション)を支えることができます。
もしもの時のために
〜早期発見とサポートの準備〜
それでも、心が疲れてしまうことは誰にでもあります。そんな時、「どうすればいいか分からない」と一人で悩ませないための準備が必要です。
「誰に相談すればいいか」を明確に
悩みがある時、園内の誰に話せばいいのか、あるいは園外(カウンセラーなど)にも相談できる窓口があるのか。それが分かっているだけで、心の重荷は少し軽くなります。「いつでもここに相談してね」とポスターを貼ったり、周知しておくだけでも安心感につながります。
「休んでも戻ってこれる」という道筋を
もし休職することになっても、それは終わりではありません。
「休職中はゆっくり休んでね」「復職する時は、短時間から慣らしていこう」といった、復帰までの温かいロードマップを用意しておきましょう。「あなたの席はちゃんとあるからね」というメッセージが、療養中の先生の心を支えます。
変化のサインを見逃さない
「最近遅刻が増えたな」「表情が暗いな」「会話が減ったな」…。
これらは、心が発しているSOSのサインかもしれません。私たち管理職は、日頃からアンテナを張り、こうした小さな変化をキャッチしたら、「最近どう?」と優しく声をかけられる存在でありたいですね。
明日から使える!心の健康チェックリスト
いきなり全部は難しくても、これならできそう!というものから始めてみてください。
| まずはここから! 職場環境チェック |
|
|---|---|
| 定期的な関わり |
|
| 学びと仕組み |
|
| もしもの時の備え |
|
先輩たちの取り組みに学ぶ
他の園ではどんな工夫をしているのでしょうか?
事例①:大手法人に学ぶ、組織的な「支え合い」の仕組み
JPホールディングス(保育園運営大手)は、東日本大震災被災地の保育士に対して、心的外傷後ストレス障害(PTSD)ケアを含むメンタルヘルス支援制度「JPスクラム・プロジェクト」を開始。被災対応の保育士1190名に対し、保育士のカウンセリング・チューター制度・定期研修を実施しています。
震災ケアの経験を活かし、カウンセラーによる相談体制や、先輩が後輩を支える「メンター制度」を導入しています。組織全体で「支え合う仕組み」を作っている好例です。日常のメンタルヘルス対策としても非常に参考になるモデルです。
- 直面していた課題
震災という未曾有の事態や、日々の保育における保護者対応など、保育士さんは常に強い心理的ストレスにさらされていました。「辛い」と言い出せずに一人で抱え込み、ある日突然、心が折れてしまう…。そんな潜在的なリスクが高まっていました。 - 講じた対策 〜専門家と仲間のダブルサポート〜
そこで導入されたのが、外部の専門家と内部の仲間、両面からのアプローチです。- 専門家によるケア: 臨床心理士などによるカウンセリング体制を整備し、プロに相談できる窓口を用意しました。
- チューター制度: 年齢や経験の近い先輩保育士が「チューター(相談役)」となり、業務だけでなくメンタル面もサポート。「ナナメの関係」をつくることで、上司には言いにくい悩みも話しやすくしました。
- 生まれた効果
「一人じゃない」という安心感が現場に広がりました。特にチューター制度は、新人の孤立を防ぐのに大きな効果を発揮。先輩と後輩の間に自然な会話が生まれ、小さな不安の芽を早めに摘み取ることができるようになりました。 - さらなる改善と未来へ
危機対応として始まったこの仕組みを、平時のケアにも応用しています。今後は、チューター役となる先輩保育士自身の負担をどう減らすか、また、サポートする側のメンタルケアも同時に行うなど、組織全体で「支え合いの連鎖」を持続可能なものにすることが目指されています。
事例②:忙しい現場を変えた、時間の「断捨離」と「確保」
園長・主任が日常業務の中で「定期的なヒアリング」「業務量の見直し」「職員同士の相互支援体制」などを取り入れていることが報告されています。
こちらは、特別な予算をかけずに、日々の工夫で風土を変えた事例です。
- 直面していた課題
「忙しい」が口癖になり、職員同士の会話といえば業務連絡だけ。休憩室でもパソコンに向かい、お互いの顔を見る余裕すらない…。そんなすれ違いの日々が続き、若手の離職やメンタル不調の予兆が見え隠れしていました。 - 講じた対策 〜あえて時間を「止める」勇気〜
園長先生と主任先生が決断したのは、意識的に「余白」をつくることでした。- 朝の10分ミーティング: 毎週1回、始業前の10分間だけ、業務連絡ではない「今の気持ち」や「最近あったこと」を話す時間を設けました。
- 事務作業タイムの確保: 「この時間は保育に入らなくていい」と決めた「事務処理タイム(ノンコンタクトタイム)」をシフトに組み込み、持ち帰り仕事を減らしました。
- 生まれた効果
たった10分の雑談でも、「あの先生、今週は少し元気がないかも?」とお互いの顔色に気づけるようになりました。また、事務作業を園内で終えられるようになったことで、「早く帰って休もう」という意識が定着。心の余裕が生まれ、ピリピリしていた職員室の空気が、ふっと柔らかくなりました。 - さらなる改善と未来へ
この仕組みを一過性のもので終わらせないために、今後はこれを園の「文化」として根付かせることが課題です。「誰かが事務時間を取っている時は、周りが快くフォローする」という相互扶助の精神を育て、特定のリーダーがいなくても自然と助け合えるチームを目指しています。
いかがでしたか?
どちらの事例にも共通しているのは、「個人の頑張りに頼らず、仕組みで支えようとしたこと」です。まずは「朝の10分」や「相談役を決める」といった小さな一歩から、自園に合う方法を試してみてください。
園長先生・主任先生、
まずは今週、これをやってみませんか?
最後に、すぐにできるアクションプランをご提案します。
- 【今週やること】
先生一人ひとりに「最近どう? 変わったことない?」と声をかけてみてください。立ち話で5分でも構いません。その一言が、先生の心を救うことがあります。 - 【来月やること】
年間スケジュールを見て、無理のある行事計画になっていないかを点検しましょう。「ここは先生たちを休ませよう」という計画を立ててみてください。 - 【半年以内にやること】
もしもの時の相談窓口や、休職・復職のルールを整えましょう。
先生たちが笑顔でいられる園は、子どもたちにとっても、保護者にとっても、最高に居心地の良い場所になるはずです。
まずは小さな「声かけ」から、始めてみませんか?

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