「時間がない」を言い訳にしない。小さな積み重ねで変わる、保育の質と“学びの好循環”

「時間がない」を言い訳にしない。小さな積み重ねで変わる、保育の質と“学びの好循環”

「もっと保育の質を高めたい」と願わない園長先生や主任はいないでしょう。しかし、現場を見渡せば、日々の保育と事務作業に追われ、ギリギリの人員配置で回しているのが現実。「外部研修に行かせたいけれど、シフトに穴があけられない」「園内研修を企画しても、みんな疲れていて『やらされ感』が出てしまう」というお悩みをよく耳にします。でも、「研修=外部のすごい講師を呼ぶイベント」と思い込んでいませんか? 実は、質の高い保育をしている園ほど、日常の業務の中に「学び」が自然に溶け込んでいるものです。今回は、時間や予算をかけなくてもできる、明日からの「職員研修」と「園内での学び合い」のヒントを整理しました。

なぜ今、「学び合う」ことが大切なのか

保育の質は、カリスマ保育士が一人いれば上がるものではありません。
大切なのは、チーム全体の底上げです。

日々の保育で起きたこと(うまくいったこと、失敗したこと)を振り返り、「私ならこうするかな」「その視点はなかった!」と価値観をすり合わせる。この積み重ねこそが、「私たちの園の保育」という軸を作ります。

研修や学び合いは、知識を詰め込む場ではなく、職員同士の保育観をチューニングし、チームの結束を固める場と捉え直してみましょう。

「園内研修」は、もっと自由でいい

園内研修は、コストゼロで自園の課題にダイレクトに効く、最強のツールです。ただし、形骸化させないためには3つのコツがあります。

  1. 「なぜやるか」を言葉にする
    ただ「研修やります」では心は動きません。「最近、怪我が多いから環境構成を見直そう」「保護者対応の不安をみんなで解消しよう」など、今、現場が困っていることをテーマにしましょう。
  2. 現場の声を主役にする
    一方的な講義はNGです。事前にアンケートで「困りごと」を集めたり、事例を持ち寄ったり。「自分のこと」として参加できる仕掛けが意欲を引き出します。
  3. 対話をメインに
    正解を教える場ではなく、「みんなで考える場」に。グループワークや事例検討を中心にすることで、納得感が深まります。

5分でOK! 日常業務に「学び」を忍ばせる

まとまった時間が取れないなら、日常の隙間時間を使いましょう。
「研修」と名付けなくても、立派な学びの機会は作れます。

申し送りに「Good」をプラス

業務連絡の後に、一言だけ「今日の〇〇ちゃんの遊び、面白かったですよ」と共有する。これだけで視点の共有になります。

「写真」で語る5分間

休憩時間の終わりの5分や会議の冒頭に、1枚の保育写真を見せて「この時の意図」を話す。文字よりも状況が伝わりやすく、盛り上がります。

週1回のプチ事例検討

「実はあの対応、迷ったんです」というモヤモヤを、週に一度吐き出す場を作るだけでも、心理的安全性は高まります。

隣の先生こそ、最高のお手本

限られた予算の中で最大の資源、それは「職員同士の経験」です。

ペアで振り返り

ベテランと若手がペアになり、お互いの保育を見て感想を伝え合う。教えるだけでなく、ベテランにとっても初心に帰る機会になります。

「困った」をチームの知恵に

難しいケースを一人で抱え込ませない。「みんなならどうする?」とオープンに話し合うことで、若手は先輩の引き出しを学ぶことができます。

他園はどうしてる? 公開事例からヒントを盗もう

「どんなテーマでやればいいか分からない」という時は、自治体などが公開している実践事例集が役立ちます。そのまま真似るのではなく、企画のヒントとして活用してみてください。

事例1:「写真」1枚から始まる対話(ドキュメンテーション)

【課題】
会議で発言する職員が決まっていて、若手が萎縮しがち。「振り返り」と言っても、具体的な反省が出てこない。

【やってみたこと】
難しい議論をやめて、「今日撮った子どもの写真」を1枚だけ持ち寄ることにしました。「この指先を見て!すごい集中力だよね」「この時の〇〇ちゃんの表情、何て言いたかったんだろう?」と、写真の中の子どもの姿だけを5分間語り合う時間を設けました。

【その後の変化】
「正解」を求められる場ではなくなったため、若手職員も「実はこの時…」と活発に発言するように。職員間で「子どもの見方」が共有され、日々の保育が楽しくなったという声が上がりました。

参考 横浜市「園内研修・公開保育の事例集」より
※「写真を使った対話」や「ドキュメンテーションの活用」に関する具体的な進め方が紹介されています。

事例2:「環境」を変えたら、叱る回数が減った(環境構成)

【課題】
室内でのトラブルや走り回る子が多く、保育士が「ダメよ!」「走らないで!」と注意してばかりで疲弊していた。

【やってみたこと】
園内研修で部屋の図面を広げ、おもちゃの配置と子どもの動線を全員で見直しました。「じっくり遊ぶゾーン」と「体を動かすゾーン」を棚で仕切り、隠れ家的なスペースを作ってみました。

【その後の変化】
子どもたちがそれぞれの場所で遊びに集中するようになり、トラブルが激減。結果として保育士が注意する回数が減り、ゆとりを持って関われるようになりました。

参考 厚生労働省「子どもを中心に保育の実践を考える事例集」より
※環境構成を見直すことで、子ども主体の保育へ転換した事例(事例1-1など)が詳しく掲載されています。

「得意」を教え合うリレー研修(相互講師)

【課題】
研修=「園長や主任が教えるもの」という空気が強く、やらされ感が漂っていた。

【やってみたこと】
役職に関係なく、職員一人ひとりの「好き」や「得意」をテーマに、持ち回りで15分のプチ講師を担当しました。「おすすめ絵本の読み聞かせ術」「わらべうた」「片付けが早くなるIT活用法」など、テーマは自由です。

【その後の変化】
「〇〇先生、絵本のこと詳しいんだ!」と互いの良さを再発見するきっかけに。教えることで本人の自信にもつながり、チーム全体の結束力が強まりました。

参考 港区「保育の実践事例集」より
※職員間の連携や、園内研修の工夫(短時間研修や職員主体での実施など)に関する事例が多数紹介されています。

「やりっぱなし」にサヨナラを

研修で一番もったいないのは、「いい話を聞いたね」で終わってしまうこと。
学びを定着させるには、「やってみて、どうだったか」の振り返りが不可欠です。

明日やることを宣言する

研修の最後に、「明日からこれを試します」と小さなアクションを一つ決める。

「変化」をシェアする

数週間後に、「あれを試したら、子どもの反応がこう変わった」という結果を共有する。

評価はテストの点数ではありません。「私たちの保育、ちょっと良くなったよね」という実感が、次の意欲に繋がります。

おわりに:学び続ける文化を、ゆっくりと育てよう

学びの循環がうまくいっている園には、共通点があります。
それは、「わからないこと、困ったことを、安心して言える空気がある」ということです。

豪華な外部研修に行かなくても、日々の保育の中で「ねぇねぇ、これどう思う?」と語り合える関係性があれば、保育の質は自然と上がっていきます。

まずは「今週のミーティングで、良かったことのシェアをしてみる」といった小さな一歩から。
園全体で学び、成長し続ける文化を、ゆっくりと育てていきましょう。

 
「時間がない」を言い訳にしない。小さな積み重ねで変わる、保育の質と“学びの好循環”

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