いまさら聞けない「こどもの権利」の常識

いまさら聞けない「こどもの権利」の常識

戦後の1951年5月5日に制定された「児童憲章」をご存じですか? 今も母子手帳にこの憲章が掲載されていますが、あまりちゃんと読んでいない人も多いと思います。今回は児童憲章の内容や、2023年に施行された「こども基本法」など、保育士なら知っておきたい子どもの権利にまつわる動きについて解説します。

児童憲章とは?

児童憲章は、第二次世界大戦後の1951年5月5日(こどもの日)に制定された憲章です。
日本国憲法の精神にならって、すべての児童の幸福を図るために定められました。

「児童の権利保障」のための憲章

戦前と戦後では、子どもの権利に対する社会の意識が大きく変わりました。
戦前は貧しさや戦争による社会の混乱を背景に、児童労働や人身売買などが行われていました。
1924年の「ジュネーブ宣言」や1933年の「(旧)虐待禁止法」など、子どもの安全を保護するための決まりはありましたが、まだ実効性に乏しかったのです。
そして戦後1946年制定の日本国憲法に基づき、子どもに対する正しい観念が確立されると、すべての子どもの幸せを実現するために児童憲章が定められました。

児童憲章の12項目

児童憲章は「子どもを人として、そして社会の一員として尊重しよう」という理念にならって、子どもの尊厳や社会全体(大人の)役割を全12項目にわたって記載しています。

一 すべての児童は、心身ともに健やかにうまれ、育てられ、その生活を保障される。
二 すべての児童は、家庭で、正しい愛情と知識と技術をもつて育てられ、家庭に恵まれない児童には、これにかわる環境が与えられる。
三 すべての児童は、適当な栄養と住居と被服が与えられ、また、疾病と災害からまもられる。
四 すべての児童は、個性と能力に応じて教育され、社会の一員としての責任を自主的に果たすように、みちびかれる。
五 すべての児童は、自然を愛し、科学と芸術を尊ぶように、みちびかれ、また、道徳的心情がつちかわれる。
六 すべての児童は、就学のみちを確保され、また、十分に整つた教育の施設を用意される。
七 すべての児童は、職業指導を受ける機会が与えられる。
八 すべての児童は、その労働において、心身の発育が阻害されず、教育を受ける機会が失われず、また、児童としての生活がさまたげられないように、十分に保護される。
九 すべての児童は、よい遊び場と文化財を用意され、悪い環境からまもられる。
十 すべての児童は、虐待・酷使・放任その他不当な取扱からまもられる。あやまちをおかした児童は、適切に保護指導される。
十一 すべての児童は、身体が不自由な場合、または精神の機能が不充分な場合に、適切な治療と教育と保護が与えられる。
十二 すべての児童は、愛とまことによつて結ばれ、よい国民として人類の平和と文化に貢献するように、みちびかれる。

実は、児童憲章は1959年に国連で採択された「児童の権利宣言」よりも前に制定されたものです。子どもの権利に関する先進的な憲章なのです。
現在も母子手帳の1ページ目に掲載されており、子どもの権利や「子どもを守り、よい環境で育てる」という大人の責任を示す指針として生き続けています。

子どもの権利条約とは?

児童憲章が定められた後も、子どもの人権が十分に守られていないという課題は依然として解消されていませんでした。そこで登場したのが、「子どもの権利条約」です。

子どもを「人権を持つ主体」と捉えた条約

1989年に国連で採択された「子どもの権利条約」は、世界中のすべての子ども(18歳未満)が持つ権利を定めた条約です。
大人と同じ一人の人間としての権利だけでなく、成長の過程に必要な保護や配慮など、子どもならではの権利も定めています。
こどもの権利条約が児童憲章と異なるのは、子どもを「主体」に置いている点です。
これまで子どもは守る対象でしたが、こどもの権利条約は「子どもは権利を持つ主体的な存在」という考え方に基づいています。

参考 日本ユニセフ協会「子どもの権利を理解しよう」

子どもの権利条約の原則4つ

子どもの権利条約は、4つの原則をベースにしています。

  • 差別の禁止(差別のないこと)
    すべての子どもは、子ども自身や親の人種や国籍、性、意見、障がい、経済状況などどんな理由でも差別されず、条約の定めるすべての権利が保障されます。
  • 子どもの最善の利益(子どもにとって最もよいこと)
    子どもに関することが決められ、行われる時は、「その子どもにとって最もよいことは何か」を第一に考えます。
  • 生命、生存及び発達に対する権利(命を守られ成長できること)
    すべての子どもの命が守られ、もって生まれた能力を十分に伸ばして成長できるよう、医療、教育、生活への支援などを受けることが保障されます。
  • 子どもの意見の尊重(子どもが意味のある参加ができること)
    子どもは自分に関係のある事柄について自由に意見を表すことができ、おとなはその意見を子どもの発達に応じて十分に考慮します。

上記4つの原則はあとで登場する日本の「こども基本法」にも取り入れられています。
政府機関は特に「子どもの意見の尊重」の部分を積極的に進めており、子どもの意見を聴き、施策に反映する取り組みを行っています。

こども基本法とは?

2000年代に入ると、戦前にあった児童労働や人身売買、教育を受けられないなどの問題が解消され、社会全体で子どもの権利が意識されるようになりました。
しかし、不登校児童の増加や子どもの自殺など、また新たな課題が出てきました。
子どもや若者の幸せの実現が求められる中、2023年4月にこども家庭庁が創設され、同時に「こども基本法」が制定されたのは、記憶に新しいところです。

「子どもや若者の幸せ」を実現するための基本法

こども基本法は、すべての子どもや若者が将来にわたって幸せな生活ができる社会を実現するためにつくられた法律です。
この基本理念に基づき、国や都道府県、市区町村など社会全体で「こども施策」という子どもや若者に関する取り組みが行われています。

実施されている「こども施策」の例

  • 居場所づくり、いじめ対策など
  • 働きながら子育てしやすい環境づくり、相談窓口の設置など
  • 教育施策、雇用施策、医療施策など

ちなみに、こども基本法で言う「こども」は、心と身体の発達の過程にある人を指します。
「18歳までの人」と年齢を区切るのではなく、それぞれの年齢・発達に応じた「切れ目のない」支援を行うことが定められているのが特徴です。

参考 内閣府「こども基本法パンフレット」

こども施策の6つの基本理念

こども施策は、6つの基本理念に基づいて行われています。

① 全てのこどもについて、個人として尊重されること・基本的人権が保障されること・差別的取扱いを受けることがないようにすること
② 全てのこどもについて、適切に養育されること・生活を保障されること・愛され保護されること等の福祉に係る権利が等しく保障されるとともに、教育基本法の精神にのっとり教育を受ける機会が等しく与えられること
③ 全てのこどもについて、年齢及び発達の程度に応じ、自己に直接関係する全ての事項に関して意見を表明する機会・多様な社会的活動に参画する機会が確保されること
④ 全てのこどもについて、年齢及び発達の程度に応じ、意見の尊重、最善の利益が優先して考慮されること
⑤ こどもの養育は家庭を基本として行われ、父母その他の保護者が第一義的責任を有するとの認識の下、十分な養育の支援・家庭での養育が困難なこどもの養育環境の確保
⑥ 家庭や子育てに夢を持ち、子育てに伴う喜びを実感できる社会環境の整備

先述した、児童の権利に関する条約の4つ原則と重ねる部分がありますね。
特に③の「子どもや若者の意見を表明する機会」の創出については、かなり具体性が増しています。

子どもや若者が意見を言える環境づくりとしては、次のようなことがあげられます。

  • インターネットを使ったアンケートの実施
  • 行政の職員が直接会って、意見を聴くこと
  • 子どもや若者を対象としたパブリックコメントの実施

こうした場で集めた意見はこども家庭審議会に届けられ、国や都道府県、市区町村は意見をもとにこども施策に取り組みます。
児童憲章や子どもの権利条約を経て、さらに子どもや若者の主体性が強まり、きちんと意見が反映される仕組みが確立された印象です。

参考 内閣府「こども基本法パンフレット」

子どもの権利を尊重した保育を意識しよう

「子どもの権利」と聞くと、つい難しいと思ってしまいがちです。
しかし、子どもの権利は私たちの生活の中で常に存在しているものです。
保育士の日々の業務には、子どもの年齢・発達に合わせて援助することや、支援が必要なこどもやその家庭をサポートすることが含まれています。
保育中に子どもの意見に耳を傾けたり、子どもが主体となって遊び、学べる環境をつくったりするなど、子どもの権利を尊重した保育を目指していきましょう。
 
いまさら聞けない「こどもの権利」の常識

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