「なんとなく職員室の空気が重い」「情報の伝達ミスが続いている」「特定の職員同士がギクシャクしている…」
子どもたちの笑顔を守る保育の現場で働く「大人たち」の人間関係に悩まれる経営者や園長先生も多いようです。職員間の人間関係は、そのまま保育の質や園全体の雰囲気に直結します。子どもたちは敏感ですから、先生たちのピリピリした空気を感じ取ってしまうこともありますよね。今回は、トラブルを防ぐだけでなく、先生たちが安心して働ける「温かいチーム」を作るための、ちょっとしたコミュニケーションの工夫をご紹介します。
なぜ今、改めて「コミュニケーション」なのか
保育は一人ではできません。担任同士の連携はもちろん、朝夕のパート職員さん、調理スタッフ、看護師など、チーム全員でバトンを繋ぐ仕事です。
「言わなくてもわかるはず」という思い込みが、小さなすれ違いを生み、やがて大きな溝になってしまうことがあります。逆に言えば、日頃からの丁寧な言葉のキャッチボールがあれば、大抵のトラブルは防げるのです。
先生同士が信頼し合っている姿は、子どもたちにとっても一番の安心材料。まずはできるところから、対話の種まきをしていきましょう。
信頼関係を育む 6つのアプローチ
ここからは、明日から少しずつ意識できる具体的なアクションをご紹介します。
「聴く力」を磨く:耳だけでなく心で聴く
忙しいとつい、作業をしながら「はいはい」と話を聞いてしまいがちです。しかし、ギクシャクした空気を変える第一歩は、手を止めて相手の目を見ることから。
- 話を遮らない: 言いたいことがあっても、まずは最後まで受け止める。
- オウム返しで共感: 「〇〇だと感じたんですね」「それは大変でしたね」と、相手の言葉を繰り返すことで、「受け入れてもらえた」という安心感が生まれます。
「なぜ?」ではなく「背景」を尋ねる
行動だけを見て「それはダメでしょう」と指摘すると、相手は責められたと感じて心を閉ざしてしまいます。大切なのは、その行動に至った背景や想いを知ることです。
| × NG例 | ○ OK例 |
|---|---|
| 「なんでそんな言い方をしたの?」 | 「あの時、どういう想いでその言葉を選んだのか、教えてもらえる?」 |
このように「あなたの考えを知りたい」というスタンスで問いかけると、誤解が解け、建設的な話し合いができるようになります。
「ホウレンソウ」を丁寧に、そして気軽に
「こんなこと言ったら細かいと思われるかな?」という遠慮が、情報のブラックボックスを作ります。
「言ったつもり」をなくすために、以下の習慣をチームで見直してみましょう。
- 朝の会でのひとこと: 業務連絡だけでなく、「今日はここが心配」という気持ちもシェアする。
- メモやノートの活用: 口頭だけでなく、文字に残すことで安心感をプラス。
- 「小さなモヤモヤ」の共有: 疑問や不安は、小さいうちにその場で解消する文化を作る。
言葉選びを「ポジティブ変換」する
同じ内容を伝えるのでも、言い方ひとつで受け取り方は劇的に変わります。否定語を肯定語に変えるだけで、職員室の空気は柔らかくなります。
| 今までの言い方 | ポジティブ変換(例) |
|---|---|
| 「これは間違ってます」 | 「こうすると、もっと伝わりやすいですよ」 |
| 「〇〇しないでください」 | 「〇〇してもらえると助かります!」 |
肯定的な言葉は、相手のやる気を引き出し、「認められている」という自己肯定感を高めます。
「気持ち」を共有する時間をあえて作る
業務連絡だけの会議では、心は通い合いません。月に一度でも、少し肩の力を抜いて話せる場を設けてみませんか?
- 「Good & New」: 最近あった良かったこと、新しい発見を一人ずつ話す。
- 感謝のシェア: 「〇〇先生のあの時の対応、素敵でした」と褒め合う時間を設ける。
「大変なのは自分だけじゃない」と知るだけで、心の距離はぐっと縮まります。
時には「ワーク」で視点を変える
時には日常業務から離れ、ゲーム感覚でコミュニケーションを学ぶ研修(チームビルディング)を取り入れるのも効果的です。
例えば、「Yes, And(イエス・アンド)」のゲーム。相手の意見を一度「いいね(Yes)」と受け止め、「さらにこうすると(And)」と付け加える練習です。こうした体験を通じ、「否定されない安心感」を肌で感じることは、現場での振る舞いにも良い変化をもたらします。
取り組み事例で学ぶ「対話の仕組み化」
ここでは、保育・幼児教育の現場で実際に行われている「対話」や「振り返り(カンファレンス)」の取り組み事例を紹介します。ポイントは、個人の頑張りではなく、“場”や“手順”として対話を組み込むことです。
事例① 協働的なカンファレンスを園内に根づかせる(奈良市)
奈良市は、幼児教育アドバイザーの実践をもとに、各園での「協働的なカンファレンス(保育者同士の学び合いの対話)」の進め方をまとめた資料を公開しています。
「カンファレンスをどう運営するか」「話し合いをどう園の学びにするか」が整理されており、“対話が噛み合わない”を仕組みで改善する参考になります。
事例② 写真を使って短時間で対話を深める(全国保育士会:フォトカンファレンス)
全国社会福祉協議会・全国保育士会の事例集では、自己評価の活用例として「フォトカンファレンス」が紹介されています。
写真(保育の一場面)を手がかりに、参加者がそれぞれの見方を出し合うことで、指摘合戦になりにくく、相互理解が進みやすいのが強みです。
事例③ 「正解探し」をやめ、対話を中心に園内研修を再設計(ベネッセ教育総合研究所:園事例)
広島県の「順正寺こども園」の事例として、対話を重視した園内研修やチーム保育により、保育者が日常的に支え合い、主体性を発揮できる風土づくりを進めた経緯が紹介されています。
「評価される感じがつらい」「発言しにくい」状態から、“話しても大丈夫”の空気を作る工夫が具体的に記載されています。
事例④ 園内研修を通じて「風通し」を改善し、質向上へ(厚生労働省:事例紹介)
厚生労働省の資料(保育の質向上に関する事例)では、外部研修の学びを園内研修へ持ち帰り、職員同士の対話や共有を通して改善につなげる視点が示されています。
「役職にかかわらず風通し…」など、対話が機能する職場づくりの方向性が読み取れます。
参考 厚生労働省「子どもを中心に保育の実践を考える(事例含む)」
事例に共通する“効くポイント”
以上の事例より、次のようなヒントが得られると思います。
- 対話の時間を「たまに」ではなく「定例」にする(忙しいほど効く)
- 議論の材料(写真・記録・具体場面)を使うと、感情論になりにくい
- 進行役(ファシリ役)を置き、評価・結論を急がないことで安心して話せる
最後に:園長先生、一人で抱え込まないでくださいね
人間関係のトラブルを完全にゼロにすることは、人が集まる場所である以上、難しいかもしれません。
しかし、「聴く」「伝える」「認め合う」という小さな積み重ねが、やがて太い信頼の幹となります。
まずは経営者や管理職である皆様が、「あなたの声を聴きたい」という柔らかな姿勢を見せることから始めてみませんか?
先生たちが笑顔でいられる園は、子どもたちにとっても、保護者にとっても、最高の居場所になるはずです。

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