2017年からスタートした「保育士等キャリアアップ研修制度」。2023年度からは研修修了要件が段階的に適用され、受講が「必須」になっています。そこで今回は、キャリアアップ研修の内容をおさらいし、さらに新たに発表された研修修了要件を解説します。
この記事のもくじ
キャリアアップ研修とは
まず、保育士等キャリアアップ研修制度(以下、キャリアアップ研修)の目的や内容についておさらいしていきましょう。
保育士の専門性の向上とリーダー職員の育成
近年は少子化や核家族化、価値観やライフスタイルの多様化に伴い、子どもや子育てを取り巻く環境が大きく変化しています。
こうした変化へ対応するために、保育士の専門性を向上させることが求められています。
とはいえ、ひと口に「専門性」といっても、保育現場には園長や主任、そして若手や中堅、リーダー職のように、さまざまな役職の保育士がいますから、それぞれの経験年数や職務内容に合わせて、向上していかなければなりません。
そこで始まったのがキャリアアップ研修です。
参考 「東京都福祉局「保育士等キャリアアップ研修の実施について」
新しい役職と処遇改善
キャリアアップ研修では、一般保育士から主任保育士の間に、新たに「副主任保育士」「専門リーダー」「職務別リーダー」という3つの役職が設けられています。
役職 | 要件 | 処遇改善 |
---|---|---|
副主任保育士 |
|
月額4万円の処遇改善 ※園長・主任保育士を除く保育士全体のおおむね1/3 |
専門リーダー |
|
月額4万円の処遇改善 ※園長・主任保育士を除く保育士全体のおおむね1/3 |
職務別リーダー |
|
月額5000円の処遇改善 ※園長・主任保育士を除く保育士全体のおおむね1/5 |
新しい役職が設置されることで、これまで不透明だった保育士のキャリアパスが明確になりました。
またキャリアアップ研修は処遇改善Ⅱの加算要件の1つなので、役職ごとに定められた研修を受講することで、副主任・専門リーダーは月額4万円、職務分野別リーダーは月額5000円の支給が見込まれます。
それでは、次にキャリアアップ研修の具体的な内容や対象者についてチェックしていきましょう。
参考 厚生労働省「保育士等(民間)のキャリアアップの仕組み・処遇改善のイメージ」
キャリアアップ研修の受講科目
キャリアアップ研修には8つの分野があり、1分野につき15時間以上を受講しなければなりません。
研修分野 | 対象 |
---|---|
① 乳児保育 ② 幼児教育 ③ 障害児保育 ④ 食育・アレルギー ⑤ 保健衛生・安全対策 | ・保育現場で各専門分野に関してリーダー的な役割を担う者(当該役割を担うことが見込まれる者を含む) |
⑦ 保育実践 | ・保育現場での実習経験が少ない者(保育士試験合格者など) ・長期間、保育現場で保育を行っていない 者(潜在保育士など) |
⑧ マネジメント | ・各分野でリーダー的役を担った経験があり、主任保育士のもとでミドルリーダーの役割を担う者(当該役割を担うことが見込まれる者を含む) |
先ほど触れたとおり、副主任保育士はマネジメント+3つ以上の分野を、専門リーダーは4つ以上の分野を、職務別リーダーは担当する職務分野記(①~⑥)を修了しなければなりません。
これらの研修を受講して知識を深め、同時にスキルも高めることで、キャリアアップができるという仕組みです。
参考 厚生労働省「保育士等(民間)のキャリアアップの仕組み・処遇改善のイメージ」
キャリアアップ研修の流れ
次に、キャリアアップ研修の受講から修了までのステップを紹介していきましょう。
参考 東京都福祉局「保育士等キャリアアップ研修の実施について」
研修実施団体を探す
キャリアアップ研修は、都道府県や都道府県が指定した機関で行われます。
この研修実施機関は、市区町村や指定保育士養成施設、保育に関する研修を実施した実績のある非営利団体に限られています。
各都道府県の公式サイトにいけば、キャリアアップ研修の開催案内が配信されていると思います。まずはそこをチェックしてみてください。
たとえば、東京都なら、「東京都保育士等キャリアアップ研修特設サイト」というページがあり、そこで研修を検索できたり、研修実施機関の詳細が掲載されていたりします。
受講申し込み
キャリアアップ研修の実施日や申込期間は、研修実施機関によって異なりますので、各機関の案内を事前にチェックして受講を申し込みましょう。
ちなみに、研修は保育園側が参加者を決めることになっています。希望者全員が参加できるものではないため要注意です。
受講
研修は、厚生労働省が定めたガイドラインに沿い、指定保育士養成施設の教員や、保育に関する十分な知識・経験があると都道府県が認めた講師によって行われます。
実施方法は機関によって異なりますが、基本的には講義形式や演習、グループディスカッションなどが推奨されていますが、中にはe ラーニングを実施する機関もあります。
場所や時間問わず受講できるe ラーニングのオンライン研修は、忙しい保育士さんにもおすすめできます。
評価・修了証の交付
所定の分野を受講し、研修の受講後にレポート提出すると、修了証が交付されます。
修了後、いよいよ副主任保育士・専門リーダー・職務別リーダーとして認められ、手当てが支給されます。
2023年度から研修修了要件が段階的に適用
これまでも、副主任保育士・専門リーダー・職務別リーダーの各役職で研修を修了する要件はありましたが、必須とはされていませんでした。
2023年度からは研修修了要件が段階的に適用されるようになり、必要となる研修修了数が定められるようになりました。
役職 | 副主任保育士・中核リーダー・専門リーダー | 職務分野別リーダー・若手リーダー |
---|---|---|
2023年度 | 1分野or15時間以上 | 適用なし |
2024年度 | 2分野or30時間以上 | 1分野 or 15時間以上 |
2025年度 | 3分野or45時間以上 | |
2026年度 (完全実施) |
4分野or60時間以上 |
副主任保育士・中核リーダー・専門リーダーは、2023年度から1分野15時間以上、2024年度から2分野30時間以上というように、1年ごとに必要な研修修了数が増えていきます。
2026年度には、もともと要件とされていた4分野60時間以上の完全実施が行われる予定です。
一方、職務分野別リーダー・若手リーダーは2024年度以降から、研修のうち自身が担当する1分野15時間以上を受講することが要件となりました。
参考 東京都福祉局「処遇改善等加算Ⅱの賃金改善対象者に係る研修修了要件について」
キャリアアップ研修を受けるメリット
保育士にとって、キャリアアップ研修を受けることには、どんなメリットがあるでしょうか。
給与アップが期待できる
キャリアアップ研修は処遇改善Ⅱの加算要件に含まれているので、研修を修了すれば給与がアップすることが期待できます。
副主任・専門リーダーは月額4万円、職務分野別リーダーは月額5000円の支給が見込まれますが、必ずしもこの額が研修講修了者全員に支給されるとは限りません。
ただし、自治体からの給付金や保育園の運営状況によって、支給される額は異なるので注意しましょう。
キャリアアップ&スキルアップにつながる
研修で各分野を学ぶことは、当然、自身のスキルアップにつながります。
研修実施機関によっては、演習やグループディスカッションを行う場合もあるので、ほかの受講者とのコミュニケーションを通じてさまざまな知見を得られるはずです。
転職・復職に有利
研修を終了すると、「修了証」がもらえます。これは全国共通のものであり、有効期限もありません。
つまり研修を受講した地域から転居し、別の保育園に転職しても活用できます。
修了証を有しており、リーダー職員として認められた経験があれば、転職先でも同等クラスのポジションにつける可能性が高くなるでしょう。
キャリアアップ研修を受講して保育力の向上を目指そう
これまで保育園では主任やフロアリーダーなどの役職はあったものの、役職の要件や規定などは細かく定められていませんでした。
しかし、キャリアアップ研修制度によって、副主任保育士・専門リーダー・職務別リーダーなどの新しい役職が設けられるようになり、各役職に必要な要件も明らかになりました。
仕事を続けていく中で「ステップアップの道のり」が明確になることで、保育士のキャリアパスがより描きやすくなります。
キャリアアップや給与アップはもちろん、保育力の向上のためにも、リーダー職を目指す方は研修を受講することをおすすめします。
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